ズーラシアで暮らすセスジキノボリカンガルー、モアラ
タニとモアラ
二人の庭に夏がやって来る
日本の夏がやって来る
その時期、庭に起こること
それは日よけのタープが張られること
モアラ
初めてちゃんと見る
モアラ
初めてタープの陰に
去年はお部屋にずっといたモアラ
タープの陰の夏
初めてのそんな夏
「今日も少し雨か」
「隣のみんなはどうしてるかな」
「暑いよね。どうせ暑いなら青空のほうがいい」
「そうは思わないかい?」
「タニが言っていたんだ。夏は暑くてしかたないから陰を作ってくれるんだ、ってね」
「それが今ここの上にあるもの」
「不思議な布さ」
「飼育係さん達の優しさ、少し大げさな優しささ」
「これなら強い日差しでもなんとか大丈夫。みんなとここで会えるよ」
「わかってる────僕は飼育係さん達のことが大好きさ」
「ここから、木の上から空を見上げることが出来ないこと────それは残念だけどしかたない。タニが辛いこと、それは僕にとっても辛いこと」
「タニが辛そうにしている顔、僕は見たくないのさ」
「セミの声が聞こえてこなくなる頃には涼しくなるさ、その頃まで我慢なのさ。ははっ、簡単だよ」
「しとしと雨、こんな日は雨だって防ぐことができる。そんな凄いものなんだ」
「ご飯が出てる」
「言いにくいけどそんなに美味しく、ないのかも……」
「この辺はどうだろう」
「…………」
「後で庭の葉、草を食べよう」
「ぱらぱらぱらぱら音がする。僕のすぐ上、音がする。雨が当たる音がする」
「下では葉っぱに当たる音がする」
「晴れてもまた雨ばかり、動物園はここのところずっとこんなお天気だ」
「今日は
エミュー達も静かなもんだね」
「聞こえてくるのは雨の音、布に当たる雨の音」
「ぱらぱらぱらぱら雨の音、なんだか落ち着く雨の音」
「僕は音のする方へ、音の近くへ────ぱらぱらぱらぱら」
「雨の音しか聞こえない、雨の音しか聞こえてこない。そんな静かな動物園」
「ほら、お客さんが誰もいないのさ」
「たまには悪くない、たまには雨も悪くない────静かな動物園も悪くない」
「やっぱり危ないからね」
「なんだか少し眠いんだ」
「眠るのは止めよう。ここにいるとよくわかる」