金沢動物園で暮らすウォンバット、ヒロキ
3連休の最後の日
風もなくただただ暑い、そんな月曜日
朝、ヒロキはお部屋の中でもぞもぞとしていました
一昨日、昨日と頑張ってしまったヒロキ
ドアは開いていますが、時々中庭を眺めるだけ
暑い暑い月曜日、ヒロキを励ます風も今日は吹いていません
そんなヒロキはお部屋の中をうろうろ、もぞもぞ
今日は庭からお客さんに会えません
だから窓からヒロキの「おはよう」
そしてそのまま“おおあくび”
お部屋のヒロキ
そんなヒロキに安心するような季節が確かに来ています
ヒロキの苦手な暑い夏
お部屋で過ごす時間は長く、大切な時間へ変わります
これがヒロキのいつも通りの夏
「ワライカワセミの雛は大きくなったかな」
「朝起きてすぐ、僕は外を覗いたんだ」
「今日もよく晴れていた。でも風が吹いていなかった」
「毎日暑いけど、今日は今年一番って思った」
「今日はたくさん眠りたいし、ずっと部屋にいるよ」
「またあくびだ」
「鼻の穴見える?」
「あくびの終わり」
「近くで見られると少し恥ずかしい」
「でも嬉しい、そうだよね」
「時間が経っても風は吹かないね。どんどん暑くなってくる」
「これだけ暑いと大変。動物達もお客さんもみんな心配だ」
「こんな日にでも僕に会いに来てくれる人がいる」
「暑い日は外へも出られない、そしていつも眠ってばかりの僕に会いに来てくれる人がいる」
「遠くから来てくれる人もいる」
「本当に嬉しいんだ」
「今日は見に来てくれてどうもありがとう」
「おまじないをしよう」
「少しは涼しくなるように、みんなが過ごしやすくなるように」
「そんなおまじないだ」
「こんなおまじない、大丈夫かな。ちゃんと効くかな」
「ちょっと心配」
「もう一度やっておこう。僕の特別なおまじないだ」
「涼しくなれば飼育係のお姉さんも働きやすいのになぁ」
「お部屋の中はやっぱり快適だ」
「もう一度あくび」
「あくびの終わり」
「セミの声以外聞こえない、静かな朝。こんな日はいつまで続くのかな」
「夏の朝、風の音が聞こえない日は本当に静か」
「時間が止まっているような気にさえなるよ」
「でも必ず夕方になって夜がくる。夏が過ぎ秋になる。時間は止まらない」
「閉園時間が来てもまた次の開園時間がやって来る」
「僕はここにいる。オセアニア区に来てくれたなら、きっとまたあなたと会える」
「僕はそろそろ眠らなくてはいけない。眠っている僕をあなたは見ることが出来る」
「でも僕はあなたを見ることは出来ない。眠った僕は夢の中にいるからね」
「きっと今日も目が覚める頃には閉園だ」
「だから今、あなたに言うよ」
「今日は見に来てくれてどうもありがとう」
ヒロキは眠ってしまいました
太陽が一番てっぺんまで昇るずっとずっと前の時間です
夢の中で誰かに出会ったヒロキは手足を動かし喜びます
あくびを追加してもっともっと長い時間眠り続け、長い夢も途中で終わりにさせません
風の無い暑い月曜日、中庭へのドアも閉まりました
ドアは夏が苦手な、たくさん眠らなくてはいけないヒロキのためにそっと閉まりました
そうしてヒロキは眠り続けます
夏の静かな午前中、誰も何もヒロキの眠りを邪魔しない、そんな静かな静かな午前中
昨日まで一生懸命頑張ったヒロキ
今日はお部屋で過ごすいつもの夏のヒロキ
夕方、飼育係のお姉さんに置いてもらったお芋とエノコログサ
それにも気づかず閉園まで眠り続けました
ヒロキの夏
静かに過ごすお部屋での夏
このまま秋が来るまで静かならヒロキはきっと幸せ