金沢動物園で暮らすコアラ、バニラ
少し不思議で優しいコアラのバニラ
今日も窓から見えるオセアニア区の大きなユーカリの木をのんびり眺めながら、夢を見るための準備をゆっくりとしていました
「もうすぐ飼育係さんがユーカリを交換しに来てくれる時間。いつからだろう、この時間に自然と目が覚めるようになったのは」
「でも今日は少し早かったかな、待ちくたびれちゃった」
「さっき思った。あんなにわがまま放題の子供だったユイが、なんだか大人になった」
「きっとお母さんも喜んでる。そんなお母さんを見て私も喜ぶ」
「音楽が聞こえてくると飼育係さんがユーカリを持ってやって来る」
「でも私にはユーカリなんかより大切なことがある」
「それはお母さんの所まで、ワカちゃんの所まで遊びに行くこと」
「お客さん達が私を見て笑顔になっている。コアラを見て微笑んでいる」
「お母さん、最近私はその嬉しさに気が付いた。動物園で暮らす動物はお客さんの笑顔を作ることができる。なによりそれが嬉しいの」
「きっと、ユイもワカちゃんもそのことにそろそろ気がつくに違いない」
「1時半、この時間にここに来てくれれば、きっとみんな笑顔になる」
「ユイ、私達はコアラだよ」
「外の光、もうあれは夏の日差し」
「ヒロキさん、大丈夫かな」
「ワカちゃんがあんなに大きなユーカリの葉っぱを食べている。なんだか凄い」
「私も大きなユーカリの葉っぱを食べてみよう」
「あまり美味しくない……」
「私はやっぱり細かい所が好き」
「私達はコアラ。ユーカリを食べる」
「ユイはだらしないカッコでユーカリを食べる」
「特別な事は普段何もない。でもなんだか楽しい毎日」
「私はこれで十分。お母さんとユイとワカ、そしてユウキくんとユーカリ。みんなが傍にいてくれれば私はこれで十分」