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ひかりのコアラ
前回(→☆☆☆☆☆)からの続きです


ヒロキさんの声はワライカワセミの小さな子に乗せて私の元へ────
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────夜中まで動物園が終わらない日
その日が来るまで何度か眠り夢を見て、また何度か目を覚ます
その時それが何回目の夢なのかなんて数えたりはしなかった
ただのんびりと、いつもどおりの時間を過ごせば、楽しみにしている瞬間はきっと普通にやって来る
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あの時ヒロキさんから聞いた言葉
“優しい人からのプレゼント”
その言葉を時々呟き、私はのんびりいつものようにお部屋で一人過ごしてた
時々ぼんやり眺める窓の外、セミの声は減った気がするし、雲は軽く空が高い
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「お空の上のみんなもまた高く、距離は少し離れちゃったかな───」
お母さん、お姉ちゃん、ワカちゃんにハヤト
みんなの顔が秋の空にぼんやり浮かぶ
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飼育係のお姉さんが交換してくれるユーカリの美味しさも、やっぱり少しずつ変わっているような気がしていた
きっと夏のユーカリから秋のユーカリへ───
種類は一緒かもしれないけれど、でもどこか少し違う
昨日と今日、そしてきっと今日と明日も同じ日が無いように、色々なことが少しづつ変わっていく
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たった一日、それだけで色々なことが変わっていく
去年と今年、そして今年と来年ならもっともっと違うだろう
「みんなどうしているのかな───」
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いつもそう───考えていること、それはすぐに言葉になった
傍にお母さんが、お姉ちゃんが、そしてワカちゃんやハヤトがいてくれた日々
それをついさっきのことのように思い出す
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思い出はいつも心の中に───
すぐに浮かぶその風景
私が思い出をしまっている場所は奥底の方じゃない
凄く手前に置いてある
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「みんなどうしているのかな───」
また同じことを呟いた
数えていないだけで、きっと何度も何度も呟いているはずだ
でも今、部屋に私は一人
───独り言は誰かに聞かれるわけじゃない
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何度も何度もその時思う言葉を呟いて、思い出したり想像したり───
いつものようにお部屋に一人、暗くなってもお客さんが帰らない日を私はただ待っていた
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夏は長いようでいて振り返れば結構短い
一日一日、本当に短い

“暗くなってもお客さんが帰らない日”

そう───その日はすぐに訪れた
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「あっ───」

コアラの家、廊下で動くたくさんの人影
寝起き、すぐに気がついた私は振り返り、窓の向こう“オセアニア区”をゆっくり眺める
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大きなユーカリの木の陰に隠れ始めた太陽はスピードを徐々に上げ、山の向こうへと足早に沈んでいく
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───暗くなってもお客さんが私を見てる
「今日だ───」
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楽しみにしていた気持ちは大きく急に膨らんで、私の胸や頭をいっぱいにする
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「もう一度、早くもう一度眠らなきゃ───」
私は急いでぎゅっと目を閉じた
ユーカリの葉っぱに埋もれこっくりこっくり、コアラはそっと夢を見る
私はコアラ、眠るのなんて簡単なはずだった


「駄目だ────眠れないよヒロキさん」
今の私は目を閉じているだけのコアラだ────
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お昼に眠りすぎていたせいなのか────

ずっとわくわくしてきた、夢を見るための準備は必ず出来ている
それなのに眠くならない時があることを私は初めて知った
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「眠らなきゃ眠らなきゃ───」
そう思えば思うほど気持ちは焦り、胸がドキドキしてくることがわかる
ヒロキさんは空が暗くなり始めたらまた眠りなさいと言っていた
目が覚めたままでいると“優しい人からのプレゼント”は貰えないのかもしれない
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ドンドン、ドーン
遥か遠くで花火の音が聞こえだし、そして時間が過ぎてまた静か
お客さんもいなくなりいつもの夜へと戻ってしまう
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───暗くなったらまた眠る
私はこの日、その大切なことが出来なかった

チャンスは明日、もう一度
明日一日、最後のチャンス
神様お願い眠らせて
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───そっと始まる夢の中、いつものように私を夢の中へとそっと滑り込まさせて
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────いつもより短く感じた夜は明け、動物園はまた始まった
「おはよう」
飼育係さんの声がする
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私の頭の中は今夜のことでいっぱいだ
考えながら過ごす時間は変に長い
いつもよりも遅く進み、暗くなリはじめを気にするあまり何度も何度も空を見上げてしまう
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「ずっと眠っていたら駄目なのか────」
ふと思ってみたりもしたけれど、きっとそれじゃ駄目なんだ
明るい間に見る夢は、夜から始まる夢とは違う
そういうこと、きっとそんなこと────
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「そろそろだ」
昨日と同じように大きなユーカリの木の陰に隠れ始めた太陽がだんだんと山の向こうへと沈んでいく
どんなに遅く進む時間でも、こうしていつかは時間が過ぎて朝から昼、昼から夕方
短い夕方さっと過ぎて、また必ず夜が来る
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────眠るんだ、暗くなったら眠るんだ

オセアニア区の大きなユーカリ夜風に揺れて優しいリズム
気の早い秋の虫の声は優しい歌を歌うよう

私はそっと目を閉じた

『とっ、とっ、とっ、とっ』
音が聞こえる
『とっ、とっ、とっ、とっ』
どこからするのか静かに音が聞こえてきてる
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誰かの音、誰かが生きてる心臓の音
ポッケの中で聞いていた、あの柔らかくて温かいポッケの中でずっと聞いていた
なんだかとっても懐かしい、優しく包むあの音に私はそっと癒される

「お母さん、ありがとう」

気持ちはすぅっと温か落ちついて、私はすぅっと眠りに落ちる
お母さんの音、私の音、そして聞こえるもう一つの音

そっと広がる夢の中、3つの音が重なり歌う

優しい優しい夢の中
夢の中なら私は自由、私は自由どこまでも────
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開かなかったドアが開く
そう、夢の中なら私は自由────
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夜の動物園を楽しむお客さんの側をすり抜けて、私はオセアニア区を歩いていく

『ドアを開けて大きなユーカリ眺めながらあそこを歩いて、こっち側、それとも向う側───』
ずっと考えていたこと想像ばかりしていたこと
夢の中なら私は自由、今の私はどこでも行ける
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ヒロキさんの家の側
石のヒロキさんに「こんばんは」
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来年は8月24日にきっと来るねと、ちゃんと約束
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『ユイ、君はアフリカ区を抜けていくんだ』と低い声
石のヒロキさんが私に言った
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「一緒に行こうよ」
私はにっこり笑ってそう言い誘う
『いいね』
石のヒロキさんはにやりと笑う
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今、私達は夢の中
夢の中ならみんな自由、楽しいことおもしろいこと、なんでもきっと必ず出来る

────ヒロキさんが言っていた“暗くなったらまた眠る”ということ、それは今の私に自由が必要だってこと
きっと訳があって外には出られなくなっていた
だから眠って夢の中、夢の中から外へ出るということ
そんなこと、ヒロキさんが教えてくれたことってそんなこと
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私達はアフリカ区を抜け、お客さん達が大勢いる場所へと着いた
『向こうを見てごらん。あれが“優しい人からのプレゼント”だ』
石のヒロキさんはそう言いながら指をさす
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私はその指さす先、なかよしトンネルの方へ振り返った
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「わぁ」

そこには優しく歌い楽しそうに踊るコアラ達がいた────
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ひかりのコアラ
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そう、私を待っていたのは“ひかりのコアラ”達────
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“優しい人からのプレゼント”
みんなをここまで連れてきくれた

私の目から涙がぽとりと地面に落ちた
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ひかりのコアラは歌って踊る
リズム刻んで奏でるメロディー
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ひかりのコアラが歌って踊る
夜風に吹かれて不思議な笑顔
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コアラ、コアラ
私達はみんなコアラ
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コアラ、コアラ
一人、二人、三人四人
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十人、百人、一万人
私達はみんな笑顔のひかりのコアラ
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ブッチさんにキリンさん
みんな一緒に踊っているよ
みんな一緒に歌っているよ
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石のヒロキさんが笑って言った
『ユイも一緒に歌ってみなよ、ユイも一緒に踊ってみなよ』
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石のヒロキさんはそう言って、笑い転げて光の中へ
みんなと一緒に歌って踊る
なんだかとっても嬉しそう、なんだかとっても楽しそう
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私も笑って光の中へ
みんなと一緒に歌って踊ってたくさん跳ねる
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───そう、今の私は夢の中
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優しい優しい夢の中
夢の中なら私は自由、私は自由どこまでも────

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ひかるコアラと歌って踊る夢の中
夢の中なら私は自由───
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あの日ヒロキさんが言っていたこと
暗くなったらまた眠るってこと
そこから始まる夢の中
自由で楽しい夢の中
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心配してくれている飼育係さんに気を使わせないで外へ出るため
───自由に歌って踊って笑うため
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優しい優しい夢の中
夢の中なら私は自由、私は自由どこまでも────
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私は歌う、私は踊る、みんなと一緒に笑ってる
ひかりのコアラと一緒に歌う、一緒に踊る
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夢の中なら私は自由
───私達はみんな自由
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夢を見ようよ
夢で会おうよ
お母さん、お姉ちゃん、ワカちゃんハヤト
────世界中のコアラ達
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夢を見ようよ
夢で会おうよ
───夢の中ならみんな自由

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私の目が覚めてしまうその前に
みんな一緒に笑おうよ
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夢の中、醒める前に自然とつぶやく
「ありがとう」
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それは寝言に、そのまま寝言で
「ありがとう」

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ひかりのコアラ、会わせてくれた優しい人
ありがとう
みんなみんな本当に───
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「ありがとう」
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「ポッケの中まで温かいね───」
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※文中の映像作品は「ひかるどうぶつえん2017」に出展された作品、『コアラのグッバイソング』です
こちらから2016年の動画が見られます


     

by bon_soir | 2017-09-05 15:38 | 金沢動物園 | Comments(6)
8月24日に聞こえてきた声
金沢動物園で暮らすコアラ、ユイ
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静かな部屋に一人
今年の夏は静かに一人
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そっと眺めた窓の外
雨が多いと思った日々は過ぎ、夏の終わりにまた夏空光る
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今年も暑い日、8月24日
暑くて暑くてこんな日は、誰もみんな思い出す
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あの庭でそっと微笑むおでこに“シワ模様”
笑顔と優しい声を思い出す
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今年もまた8月24日
悲しい日、寂しさ心の奥底膨らむ日
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でも大切な日
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高い雲は秋の雲
秋の準備は進んでる
ぽろりと一粒涙をこぼせば秋は近づく
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もっと近くに、もっと傍に
8月24日
風さえ吹けば秋はすぐそこ
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───ドアをそっと開けてオセアニア区に出る
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───大きなユーカリの木、何度も何度も見上げて歩く
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───こっち側からにしようか
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───それとも少し静かな向う側
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───部屋で一人過ごす時間、私は色々考える。頭の中に色々な景色や音、風の雰囲気、草の匂い
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───暑くなれば私はいつも考える、あの場所、あのお庭。そこまで歩く私
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───でも
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「駄目だ、今日もやっぱり開いていない───」
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飼育係さんがどんなにちゃんと閉めても私が押せばそっと開く部屋のドア
いつの頃からだろう、どうしてもドアは開かなくなった
オセアニア区へ、動物園のどこかへ、私はお散歩が出来なくなっていた
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あそこを通ってあの場所へ
───石のヒロキさんが待っているあの場所へ
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8月24日───お姉ちゃんと二人、飼育係さんに教えてもらった日
側へ行こうと思っていたのにドアは開かない
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暑くなってからずっと考えていたこと、傍へ行くこと
それを今日するはずだったのに、なんでだろう
───ドアが開かない
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仕方がないから私は窓の向こう、オセアニア区を眺めてまた思う
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「ドアを開けて大きなユーカリ眺めながらあそこを歩いて、こっち側、それとも向う側───」
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「ヒロキさん、ごめんね。なんだか傍にいけないみたい」
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こんな時、お母さんならどうしただろう
こんな時、お姉ちゃんならどうしただろう
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こんな時、私はどうすればいいんだろう
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飼育係さんに聞くわけにはいかない
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───全部内緒のことだから
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私はコアラ
長く眠る
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今日の夢はどんな夢
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飼育係さんとたくさん話す、そんな夢
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いつもよりもたくさん話す、そんな夢
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今日の夢はどんな夢
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オセアニア区をてくてく歩いて大きなユーカリそっと見上げて
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咲き戻したブラシノキの花やっぱり真っ赤
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ほら、石のヒロキさんも笑ってる───
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今日の夢はどんな夢
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ワライカワセミの子供、私の所へ飛んできて
なぜか知ってる声で話す
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「その声は───ヒロキさん?」
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『少し身体を借りたんだ。また空を飛んでみたくって、少しの間、この子に身体を借りたんだ』
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『ユイ、大事なことだ───目を覚まさないでいい、夢の中で僕の話をそのまま聞いてくれないか』
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『ドアが開かなかったこと、外へ出ることができなかったこと───それは少し残念だと思ったかもしれないけれど大切なことなんだ』
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『コアラの神様がユイを大切に思い、しばらくの間ドアを開かなくさせた。そういうことなんだ』
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『飼育係さんに心配かけるわけにもいかないしね』
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『ユイ、わかっているんだろう? ───君にもその理由が、さ』
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『今はそっと、お部屋でそっと過ごすんだ。いいね?』
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『一人で頑張るユイに優しい人からのプレゼントがある。きっと素晴らしい贈り物に違いない───』
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『また夜中まで動物園が終わらない日が来る。今年最後の2回、知っているだろう?』
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『暗くなってもお客さんが帰らなければその日ってことだ。その日が来たら、ユイ───』
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『いつもなら空が暗くなって、コアラ達の目が覚めるころ───ユイ、君はもう一度眠るんだ。大丈夫、プレゼントを楽しみにしていれば夢を見るための準備は出来ている』
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『いつも見る風景から夢は始まり、その中へいつものようにそっと入っていくことが出来るだろう』
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『その夢の中のユイはきっと自由さ。夢の中ならなんでも出来るって信じる気持ちで自由を感じてしまえば後は大丈夫』
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『優しい人が用意してくれたプレゼント、素晴らしい贈り物───その場所まできっと、きっとたどり着くことが出来るだろう』
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『いつもと違うことだからもう一度言うよ。空が暗くなったら眠るんだ。わかったね?───』
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『ユイ、今日は8月24日だ───僕のこと、想ってくれてどうもありがとう』
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『じゃあ、またね』
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───すぐ傍にヒロキさんの顔を見た気がした
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「暗くなったらまた眠る」

夢の中でヒロキさんが言っていたこと、私は忘れないように何度も呟いた
───そう、夢で見たことはすぐに忘れてしまうかもしれないから
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あんなにはっきりと聞こえていたヒロキさんの声
今はもう聞こえない
いつもどおり、静かなお部屋に私一人
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8月24日
外へは出ることが出来なかったけど、私はヒロキさんに会うことが出来たようだ
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“優しい人からのプレゼント”
それはどんな物なんだろう

“優しい人”
それはどんな人なんだろう
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考えていたらまた眠くなってきた
私はコアラだから───
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「ひかりのコアラ」→☆☆☆☆☆へ続く





    

by bon_soir | 2017-09-03 15:40 | 金沢動物園 | Comments(4)
ユイと鳥の巣
金沢動物園で暮らすコアラ、ユイ
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少し賑やかになる予感のコアラのお部屋
静かな夏はもうきっとこれっきり

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コアラは薄暮性
晴れた空、照りつけた庭はちょっと眩しい
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ユイがふと見た窓の外
パンパスグラスの大きな穂がふわりと光る
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そっと一人、夏を過ごすユイの所へ
そっと近づく秋の予感
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まだ今は、うとうとうとうと夏の夢見て
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まだ外は、みんみんみんみんセミの声
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オセアニア区は夏から秋へ
ヒロキとお別れをした日はそっとみんなの所を通り抜け
オセアニア区は夏から秋へ
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あたりは静かに
ゆっくりゆっくり時間は進む
時間は途中で休憩取らないで
あたりは静かにゆっくりゆっくり
ゆっくりゆっくり時間は進む
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「目が覚めた。今日の夢も夏の夢」
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「ピンク色したサルスベリ、まわりではしゃいだコアラ達」
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「今日の夢はそんな夢。静かに始まりそっと目は覚め、静かに終わったそんな夢」
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「夏の動物園はどこか静か。一昨年も去年もそうだったのかは思い出せない」
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『ユイ、登っておいで───ユイ』
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「オセアニア区の大きなユーカリ、風に揺れて小さくて優しい声。私をそっと呼んでいる」
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「少し前に気がついた。目が覚めても私は自由。ユーカリの声聞こえたら私はまだ夢の中にいるようにふわりと自由」
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「外へ繋がるドアを開け、私はそっと外へ出る」
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「大丈夫、誰にも見つからない───一人だけの内緒のお散歩」
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てくてくてくてく
ユイは歩く
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ときおり見上げる夏の空
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目の前通る夏の虫
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てくてくてくてく
夏のお散歩
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てくてくてくてく
ユイは一人で不思議なお散歩
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夢で見たのと同じ色したサルスベリ
いつかみんなで眺めた夏の花
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楽しかったあの日々を思い出してそっと微笑み、涙がぽろり
涙はぽとりと地面に落ちて陽射しで乾く
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ユイをそっと見つめるオセアニア区の大きなユーカリ
ゆっくり静かに見上げたコアラ
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コアラの可愛い女の子
ユイ
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『ほら、登っておいでよ───高く登れば風が気持ちいいい』
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『ほら、登っておいでよ───ユイはコアラ、木に登ることが出来るんだ』
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ユーカリの声聞こえたら、誰もが高く登ることが出来るはず
ユーカリの声聞こえたみんな誰もが高く登ることが出来るはず
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高く登って風に揺れ、高く登って一休み
高く登って景色を眺めて、高く登って夢を見る
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ときどき誰かに話しかけ、ときどき誰かが背中を押して
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みんなは大きなユーカリ登る
みんな、みんなコアラの気持ち
コアラも人も動物達はみんなユーカリ登ってコアラの気持ち
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季節は静かに
ゆっくりゆっくり季節は進む
季節は途中で休憩取らないで
そっと静かにゆっくりゆっくり
ゆっくりゆっくり季節は進む
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「あ、あれだ───」
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「お部屋から眺めていた鳥の巣、誰かの巣」
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「どんな鳥が暮しているんだろう、どんな卵が、どんな雛が、どんなお父さんとお母さんが暮しているんだろう────ずっと思ってた」
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「驚かさないようにそっとそっと。私は登ってそっと近づく」
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「そっとそっと静かにそっと」
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「そっと、そーっと覗かせて────私にそっと覗かせて」
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「誰もいない」
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「そうか、雛は大きくなって巣立った。鳥は大きくなって空を行く。みんなまた新しい世界へ、と────飛んで行ったんだ」
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「少し食べさせて」
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「私は大きなユーカリの木の葉っぱを食べさせてもらう」
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「美味しい葉っぱ。私はコアラ、ユーカリの声を聞いてユーカリの葉っぱを食べて、ユーカリと一緒に眠るんだ」
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「柔らかい、柔らかくてなんだかとっても温かい」
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「誰もいない鳥の巣に私はそっと腰掛ける」
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「大きくなった鳥が巣立って飛んでいったように、私ももう大人────お母さんもお姉ちゃんも、ワカちゃん達ももう傍にはいない」
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───今年もサルスベリのお花が咲いたよ
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「そう呟いた時ぽとりとまた涙がこぼれた」
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「やっぱり一人じゃ寂しいよ────」
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「『また泣いちゃった』────そう呟いたときだった」
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「風が少し強く吹いて、大きなユーカリの木がゆっくり大きく揺れていた」
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「温かい鳥の巣の中、私は一緒に大きく揺れる」
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「────この感じ、なんだかとても懐かしい。懐かしくて優しくて、私の心をふわっとぎゅっと包み込む」
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「お母さん────これはきっとお母さんのポッケの中のあの感じ」
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「お母さんは私をポッケに入れて登ってたんだ。まだ小さな私を連れてオセアニア区の大きなユーカリの木に登ってこうして揺れていたんだ────」
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「お母さんの音が聞こえる、お母さんの声が聞こえる────ポッケの記憶、あのリズムと歌声。何より優しい子守唄。コアラ達の子守唄」
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「寂しい涙は嬉しい涙へ変わっていく。安心してそっと一緒に眠りにつく前の、あの子供の頃の涙へそっと変わる────」
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「大きなユーカリの木に優しく揺られた今の私、温かい鳥の巣の中で眠ります」
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「おやすみなさい、お母さん。おやすみなさいお姉ちゃん」
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「寂しくなったらまたここに、ここで揺られて夢の中────私はは風にそっと揺られて夢の中」
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コアラは風に揺られてそっと眠って夢の中
ユーカリと一緒、風に揺られて思い出すお母さん

────温かくて柔らかい、優しいポッケの記憶と夢の中




   

by bon_soir | 2017-08-15 12:11 | 金沢動物園 | Comments(4)
オセアニア区の夏空
金沢動物園で暮らすコアラ、ユイ
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窓から空を見上げるだけ、ただそれだけでも暑さが伝わる夏のこと
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何故か長く眠りたくなる夏のこと
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夏のユーカリ、夏の香り
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少し齧って広がる香り
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夏のオセアニア区は少し静か
ただ聞こえてくるのはワライカワセミ笑う声と、数増えてくるセミの声
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夏に見る夢長い夢
ふわりふわりと静かにゆっくり
そんな夢
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淡く輝く景色がぼんやり
色鮮やかに滲む色
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跳ねていたのはカンガルー
遠くで跳ねて笑ってる
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目が覚めたのに夢の中
そんな気がする夏のこと
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長い夢からゆっくり醒めて
ゆっくり今の時間の中へ
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夢の終わり、夏の色と夏の香りに滲んでる
滲む時間の上を滑る
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窓の向こうにカンガルー
夢の中で跳ねていた子と違う笑顔
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カンガルーを真似して跳ねた
コアラだけれど真似して跳ねた
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今年の夏はどんな夏
オセアニア区にはどんな夏
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どんな夏がやって来た
どんな夏が過ぎていく
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ユイの夏はどんな夏
今年の夏はどんな夏
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夢の中とは違う景色
いつもの景色は夢じゃない
今、ユイはオセアニア区、コアラの家の部屋の中
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窓の外には夏の空
大きなユーカリ風に揺れ
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窓の向こうにカンガルー
夢の中で跳ねていた子と違う笑顔
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お母さん、お姉ちゃん
ワカちゃん、ハヤト
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そしてポッケの中にいた小さな赤ちゃん
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みんなの笑顔が空に浮かぶ
大きなユーカリの木よりももっと高く
夏の雲よりもっと高く
夏の青空、そのまた向こう
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優しい笑顔がたくさん浮かぶ
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夏のユーカリ夏の香りに夏の味
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少し齧って広がる香り
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食べた後はコアラのベッド
香りで包む優しいベッド
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また静かな夢へと誘うコアラのベッド
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眠る前に一回り
木の上歩く一回り
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夢を見るための準備、そのまとめ
またいい夢見ることできるように
安心して眠れるように
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コアラは長い夢を見る
悲しい夢、怖い夢
嫌な夢を見ないようにしっかり準備
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ぐるっと、ぐるっとひと回り
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遠くで聞こえるセミの声
夏の空まで届いてる
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お空の上のみんなのところ
オセアニア区の夏の音
きっと聞こえているんだね
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同じ声、同じ音がみんなの所へきっと聞こえているんだね
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青い夏空どこかふんわり
太陽隠れてそっとふんわり
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夢の中でも何度も跳ねた
カンガルーの真似して跳ねた
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跳ねて一人、笑顔のコアラ
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儚く健気に暮らすコアラ
頑張るコアラ
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夏は一日一日過ぎていく
オセアニア区の夏の空は変わらない
空だけは何も変わらない
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頑張るコアラが笑顔な限り
青い空は変わらない




  

by bon_soir | 2017-07-26 08:00 | 金沢動物園 | Comments(4)
ユイ、一人の散歩

金沢動物園で暮らすコアラ、ユイ
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そっと一人で暮らす日々
今は一人、そっと一人で暮らす日々
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ユイは知っている
大好きなお母さんやお姉ちゃん、みんなが今どこにいるのかを
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果てしなく遠くはなれているはずなのに、いつもどこかで繋がっているということを
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同じもの、同じような風景を今でも一緒に見ているということを
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寂しいけれど大丈夫
ユイは寂しいと感じているけれど、きっと大丈夫
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バニラが残してくれたもの
たくさんのものを心の奥にそっとしまっているから大丈夫
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オセアニア区の優しさ、そして温かさ
全部感じて大丈夫
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もう一人のお母さん、傍で笑顔
きっと大丈夫
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ユイ、一人で過ごす初めての夏
それはまだ梅雨から始めてみたばかり、まだまだ続く暑い夏
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「かりかり、ぎっぎっ」

────どこかで声が聞こえてる
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声のする方を私は探す
ヤマモモの実がなっている

────あそこだ
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リス、タイワンリス君だ────
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「────外へおいでよ」
リス君は私を誘う

雨が降ったり止んだり、そんな季節
お姉ちゃんと撒いた種、雨が芽を出し育てていく
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私がお水をかけなくても大丈夫、今の時期、雨降り多い時期なら大丈夫
私はあまり外へは出ていない

あのヤマモモの実の色────季節はすっかり進んでいるようだ
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季節は私の心を追い越して、少し先で待っている
「早くおいでよ、外へおいでよ────」
リス君の声は季節の声だ
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────あの声、あれはきっと夏の声だ
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気がついてしまったら動かなければいけない
気がついてしまったらやらなくっちゃいけない
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知っているのに、気がついているのに────何もしないこと
知らないこと、気がつかないこと────それより駄目なこと、寂しくて悲しくて嫌になること

そんなこと
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飼育係さんにはちょっと内緒
内緒のお散歩
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そんなお散歩に出かけよう
夏が私を待っている
そんな気がする
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くもり空でもしかたない
思ったとき、次へと進まなければ忘れてしまう
きっと忘れてしまう
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夏は私を待っている
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リス君の声で気がついた
私はやっと気がついたんだ
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きっと去年と変わらない夏が来てる
色々なことがまた、またそっと変わっている
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出かけよう、お散歩に出かけよう
オセアニア区にまた、またあの夏がやって来てる
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お母さん、お姉ちゃん
ヒロキさん
みんなが知ってる夏が来ている
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もう来ているんだ
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一人のお散歩、一人でお散歩
出かけよう

ドアをそっと開けてすり抜けて、コアラの家をそっと抜け出す
────オセアニア区へ出かけよう
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ヒロキさんの庭の前、デイゴのお花咲いている
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デイゴは急に芽が伸びて、急いで蕾が膨らんで
急いで咲いて散っていく
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そんなお花、赤いお花
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お尻がちょっと引っかかる
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あぶないあぶない
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ヒロキさんのお庭のミモザ
また種になっているね
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今年もちゃんと種になっているんだね
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今日も空は曇ってる
また雨になるかもしれない
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でも大丈夫
少しくらい濡れたって大丈夫
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気にしてばかりじゃどこにも行けない
大丈夫、すぐにまた乾くよ
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雨の日は雲が低い
きっとお空のみんなも近くへ来てる
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きっと近くまで来てるんだ
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耳をすませば声だって、みんなの笑う声だって聞こえてくるかもしれないね
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「大丈夫、元気でやってるよ────」
小さな私の声だって、みんなのところに届くのかもしれないね
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雨の日、曇りの日
こんな日にお散歩するのも悪くない、そう考えれば悪くない
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かえって楽しいかもしれないね
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────キウイ、そうだキウイだ
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お姉ちゃんと“もいだ”あの実
かわいいキウイの実────
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今年もなっているのかな
大きくなっているのかな
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探す
私は探すよ、キウイの実
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どこかにあるよ、きっと今年もなっているよ
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「あっ」

────キウイの実は今年もちゃんと、ちゃんとなっていた
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毎年お姉ちゃんと一緒に“もいだ”あのキウイ
今年もちゃんとなっていた
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「お姉ちゃん、見えてる? ヒロキさんの庭のあのキウイ、なってるよ────今年もまたなってるよ」
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「戻ろう」
私は一言呟いて、部屋に戻る
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「どこへ行ってたの?」
飼育係さんは私に優しく聞いてくる
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「夏を見てきたよ」
私は一言そう伝える
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「そうか────」
飼育係さんはそっと微笑む
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夏が来たことに気がついて良かった
気がついたらあとは動くだけ
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気がついたら動くだけ
ただそれだけ────だよ
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楽しいね!
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夢を見るための準備
終わったかな
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動物園に遊びに来たみんな
みんなの準備は終わったのかな
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一緒に寝ようよ
夢の中でまた会えるかもしれないよ
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by bon_soir | 2017-06-28 10:53 | 金沢動物園 | Comments(2)
夏が来て
金沢動物園で暮らすコアラ、ユイ
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雨が降らない日々、それでも梅雨のこと
オセアニア区は夏の空
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ユイが見る夢、それはもう夏の夢
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コアラが見る夢、きっと夏の夢
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「一人で過ごす夏が来て、動物園は少し静か」
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「部屋で過ごしてばかりいるとわからない。外はもうぐーっと暑くって、太陽、青空も夏のもの」
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「去年の夏はどんなだったか、みんなは覚えているのかな」
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「去年の暑さ、去年の夕立、去年聞いた虫の声」
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「みんなは覚えているのかな、みんな覚えているのかな」
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「一人で過ごす夏が来て、私は全部覚えてる」
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「一人で過ごす夏が来て、私は全部思い出す」
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「私はコアラ。コアラのこと、私が一番覚えてる」
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「大切な思い出ばかり───大丈夫、私は全部覚えてる」
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「一人で過ごす夏だから、どんなことでも思い出す」
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「一人で過ごす夏が来て、コアラの家はどこか静か」
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「話し声、私の独り言ばかり」
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「早く夕方来ないかな」
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「早く夕方来ないかな」
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「夏の陽射し、輝く景色」
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「コアラには少し眩しすぎる」
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「太陽まだまだ枝の隙間。大きなユーカリ、枝の隙間」
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「動いて動いて向こうの方へ」
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「早く夕方来ないかな」
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「きっとみんなも涼しいね」
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「今頃一番日が長い。なかなか太陽沈まない」
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「一人で過ごす夏が来て、私は色々考えてばかり」
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「一人で過ごす夏の日に、一人私は考えてばかり」
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「窓の側から目をこらして外を眺める」
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「ヒロキさんの家にもちゃんと夏が来ている」
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「春は過ぎた。動物園を夏色に変えて過ぎていった」
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「あじさい咲けば夏の始まり、いつもどおり」
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「去年と違う一人で過ごす夏、私の夏」
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「みんな、みんなは変わりない?」
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「みんなの夏は変わりない?」
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「私は色々思ってる、色々色々思い出している」
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「みんな、みんなは変わりない? みんなの夏は変わりない?」
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「早く夕方来ないかな」
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「一人で過ごす夏が来て、私は色々考えて」
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「一人で過ごす夏が来て、私は色々思い出した」
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「寂しい寂しい毎日に、私は色々思い出した」
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「早く夕方来ないかな───それは」
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「───それは、お母さんに会えるから」
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「思い出した───私にはもう一人お母さんがいる」
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「優しくて温かい、私にはもう一人お母さんがいる。飼育係さんは私のお母さん、もう一人のお母さん」
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「お姉ちゃん、私は大丈夫。本当に大丈夫」
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「もう一人のお母さんが一緒にいてくれるから、私はきっと大丈夫───夏が来て私はきっと大丈夫」
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by bon_soir | 2017-06-17 15:50 | 金沢動物園 | Comments(8)
バニラとユイの幸せの種
「今日も戻ってこなかった───」
飼育係さんがいなくなった夜の動物園でふと呟いた
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お姉ちゃんが一人の部屋で過ごすようになってからだいぶ経つ。私だけの広い部屋、今は薄暗さと静けさが息苦しい
わかっていた───お母さん、ハヤト、そしてワカちゃん
あの部屋で過ごすようになるとある日いつのまにか、そして急にお空の向こうへとみんな行ってしまう
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───怖くて怖くてしかたない。どんどんやって来る嫌な予感に私は脅され続けている
「大丈夫、お姉ちゃんは大丈夫」って、負けないように何度も何度も声に出してみても、またすぐにその嫌な予感に押しつぶされる
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お姉ちゃんとお別れなんか絶対にしたくない───大好きなお姉ちゃんとずっと二人、一緒に窓の外を眺め微笑んで、一緒にお散歩に出かけて笑って、二人同じ夢を見て気持ちよく眠っていたい
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優しいお姉ちゃんといつまでも、ここでのんびりいつまでも暮していたい───ただそっと暮していたい
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ふと眺めた窓の外の星空に、きらりと一つ大きな大きな流れ星
「あっ───」とただそれだけ声が出た
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“本当はもう、ドアの向こうにはもう誰も───”
怖くてずっと動けなかった私の気持ちはその大きな流れ星に気付かされ、そして急かされた
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静まり返ったオセアニア区、コアラの家
私の小さな足音だけが小さく響く
立ち止まったドアの向こうで寝息と寝言、ここの部屋はユウキ君が眠っている
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「こっちかな───」
別のドアの前に立ち、少し迷ってから静かにドアを開けてみた
私の目から涙が溢れた
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聞き慣れた寝息といつもの匂い
きっと何か夢を見ているんだろう───時々その小さな口を動かしてお姉ちゃんは一人眠っていた
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「来たよ、お姉ちゃん」
私は眠っているお姉ちゃんを起こさないように気をつけて隣に座り、むにゃむにゃと動く小さな手をそっと握った───
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「おはよう」
今日もちゃんと朝が来て、飼育係のお姉さんの顔を見ることが出来た
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この小さな部屋で過ごすようになってどのくらい経ったんだろう
もう何日もユイの顔をずっと見ていない
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ユイは今何をしているんだろう
大きな部屋で一人、静かに窓の外を眺め、怖くなればユーカリにの中へ逃げ込んで、毎日きっと寂しくしている───
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ずっと一緒に暮らしてきた私、ユイの気持ちはどんなことでもよくわかる
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今すぐユイの傍へ行きたいけれど、なんだか身体が上手く動かない
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ここで過ごすようになったときからわかっていた
───そう、私は病気になってしまったんだ
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朝が来て段々と明るくなるオセアニア区、大きなユーカリの木の向う側へと沈む太陽───そして晴れた夜の明るい月とたくさんの星
この部屋からはどれも眺めることが出来ない
小さな窓から小さな景色がみえるだけだ
私はその景色を好きになれなくて、小さな窓の向こうを見ないようにしていた
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飼育係のお姉さんの「おはよう」で朝に気がつき、「また明日ね」という優しい笑顔でまた夜になることを知る
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“夢を見るための準備”はあまり上手く進まない
ぼんやりといつのまにか眠りについた私が見る夢は昔の風景、そして楽しかった思い出のことばかり
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───しかたない
病気になってしまった私、ずっと待っていた春の風景をまだ見ていないのだから
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「春、終わっちゃうね」と、チューリップのお花が風に揺れる様子を頭のなかに描いてふと呟いた
ユイと一緒にお花を見にいくこと、今年はこのまま出来ないかもしれない
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───ごめんね、ユイ
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「おはよう」とドアは開き、また変わらない朝が来る
飼育係のお姉さんは一日に何度も何度も様子を見に来てくれて、そのたび優しい笑顔を見せてくれる
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お姉さんの言葉に耳を澄まし、ふと思う───私はちゃんと笑顔を返してあげられているのか
それが気がかりだった

日に日にぼんやりとしていく私
“自分が今どんな顔をしているのか”、それがわからないでいた
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精一杯、一生懸命に精一杯、だから私は笑顔を作る
私が笑顔なら、コアラが笑顔なら───動物達が笑顔であったなら
きっとみんな笑顔になれる、みんなの笑顔で優しく温かくなっていく
動物園ってきっとそんな場所
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飼育係のお姉さんの笑顔を見ていつだってそう思っていた
悲しいことがあった日もそうして毎日少しづつ、私は素敵な笑顔に元気を貰っていたから
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お母さんの笑顔を思い出す
ワカちゃんとハヤトの笑顔を思い出す
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少ししかないお父さんの思い出も頭の中に浮かんでくる
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みんなの声が聞こえてくるようだ
小さく、時々はっきりと楽しいコアラの声が聞こえてくるようだ
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なのにユイは今一人、きっと一人
「ごめんね、ユイ」と声に出すと涙が一粒、また一粒とこぼれていくのがわかった
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気がついていた
───私がみんなの所、“お空の上”へといく日が近づいている
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病気になること
それは悲しくて悔しくて、そして凄く怖いことだ
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私はコアラだった
どんなときでも眠くなる、いつのまにか眠っている
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必要だった眠ること、大好きだった夢の中
今は不安でしかたない
一度閉じた目はまた開くのかがわからない、「おはよう」って声をまた聞くことが出来るのか───
今は不安でしかたない
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夢の中でユイに会う
泣いてる私の傍へ来る、そっと傍へ来てくれる
一緒に暮らしてきたあの日のように、ユイは私の傍へ来る
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夢の中のユイが私の手をそっと握る
あったかくて柔らかい、私はゆっくり目を開く
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「お姉ちゃん───」

「ユイ───」


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「おはよう」
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その日からユイは毎日来てくれるようになった
飼育係のお姉さんが帰ればすぐにドアを開け、朝日が登りだせばそっと静かに帰っていく
そんな日が何日か続いていった
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ユイの話に頷いて、ユイの笑顔で私も微笑む
怖い気持ち、不安な気持ちは少しずつ少しずつ、そっとどこかへ消えていった
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ユイは私の妹、たった一人の大切なかわいい妹だ
今までも、これからもずっとずっと変わらない
ユイは私の妹だ
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一度お別れをする日のことはもう怖くない、もう不安じゃない
ただ寂しく、ただ悲しいだけ

ただそれだけだ
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本当はいつまでもこの優しい日々が続いて欲しい
ただそれだけだ
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───私はいつものようにお昼寝をして、またユイが来る夜を待っていた
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新しいユーカリの匂いでふいに目を覚ます
ゆっくりと目を開けると飼育係のお姉さんの目に涙が溜まっているのが見えた
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「泣かないで」
そう言ったつもりだったけど飼育係のお姉さんに私の声は届かなかったみたいだ
ほっぺを涙がつたっていき、ぽたりとそのまま床へ落ちる
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「私は元気、こんなに元気だよ」と、そう言いたいのに上手くしゃべることが出来ない

───食べてるところを見ればきっと安心してくれる
そう思った私は新しいユーカリに手を伸ばす
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「おかしいな」
力が入らない
ユーカリをいつものように上手く掴むこと、それが私にはもうできなかった
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それからはもう眠くならなかった
私は今まで好きになれなかった小さな窓から外を眺め夜を待ち、そしてユイが来るのを待った

───お母さんの声がどこからかずっと聞こえてきている
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「よくがんばったね、バニラ。本当によくがんばったね」
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声がするたび私は頷き、頷くたびに涙がこぼれる
夜が来るのはあっという間だ
空はまた暗くなる

「お姉ちゃん───」
いつものように笑顔のユイがドアを開ける
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「ユイ───」
涙を手でぬぐい大好きな名前を言葉にすると、少し温かい気持ちになった
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───大丈夫、私もユイもきっと大丈夫
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「ユイ、今日はお願いがあるの」


「何?なんでも言って」
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「ヒロキさんの家に“旅の箱”が置いてあるのは知ってるよね。その中にミモザの種が置いてあるの。去年の夏にヒロキさんの庭で拾って集めて入れておいた種が内緒で置いてあるの。それを取ってきて欲しいんだ」
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「大丈夫、私はここで待ってるから。ユイが戻ってくるのをここで待ってるから、ね───」
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「───あった、ミモザの種。お姉ちゃんが言ってたのはこれだ」

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「取ってきたよ、お姉ちゃん。これのことでしょ───」
ユイは少し息を切らしてバニラの待つ部屋へと戻ってきました
手には一掴みの“ミモザの種”
去年、ヒロキの庭のミモザが落とした種でした
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「これ、どうするの?」
そう訊くユイにバニラはそっと微笑み、そのミモザの種を受け取り半分に分け、そっとまたユイに渡しました
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「ユイ、今から言うこと、少し聞いて───」
バニラはユイの目を優しくそっと見つめ、ゆっくりと話を始めました
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「ユイ、今渡したミモザの種をどこかに蒔いてお水をかけてみて。そう、陽の当たる所がいい。いつか芽を出し伸びていきお花が咲く。あの黄色いお花が咲いてくる。ただヒロキさんのミモザのように大きくなって木になるには何年も何年もかかるはず。木が大きくなるにはたくさんの時間がかかるの。動物園にある大きな木、みんな長い時間をかけてあれだけ大きくなった。動物達みんなが木陰で休めるくらい大きくなった。凄いでしょう、大きな木は長く長く生きてるの。この種、半分は私が蒔く。お母さん達と一緒に、お空の上の方でね───」
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「そう、私はお母さんとお父さん、そしてワカちゃんとハヤト、そしてヒロキさんの所へいかなければいけない時が来た───」

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「そんなの嫌だよお姉ちゃん、私も一緒に───」

「駄目、絶対に駄目だよ。お母さんも言っていた、自分から望んじゃ駄目なこと、絶対にいけないことがある。いつになるのか、どんな風になるのかは誰にもわからない。今の私のようにその日が来るまで、その日が来るまでただ毎日のんびりと頑張って、ここで暮してみんなと笑顔でいなければいけないんだよ。もし自分でお空へ行こうとしてしまったら、きっと私達に会うことは出来ないんだよ。ユイ一人どこか変な所へたどり着いてしまうんだよ。そんなの私は嫌、またいつか大好きなユイに会いたいよ。みんなでユイを迎えたいよ。またみんなで笑いたいよ。わかって、ちゃんと───」
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「だからね、ユイはミモザが種から大きな木になるまでを見ていくの。さっきも言ったとおり何年も何年もかかること。それでも途中で止めちゃ駄目だよ。大きく育ってたくさんのお花が咲くのを見ていないと駄目なんだよ。私はお空の上で同じように種を蒔き、お花が咲いて大きな木になっていくのを見ているよ。最初に芽が出てきたら同じように芽が出たかなって考えて、最初にお花が咲けばユイのミモザも咲いたかなって笑顔になれる。何年も何年もずっと先、ずっとずっと先のこと、立派な大きい木になれば───そろそろユイに会えるかなって涙を流すことができるでしょ───」
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「ユイ、大丈夫だよ最初のお花が咲く頃にはきっとお友達が増えてるよ。木になって、木が大きくなってたくさんのお花が咲く頃になればこのコアラの家も賑やかになってるよ───今こうして分けたミモザの種は私達二人の幸せの種。コアラの未来へ続く私達二人の幸せの種。みんなをきっと笑顔にしてくれる、そんな種は幸せの種───」
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「わかったよ、お姉ちゃん───」
バニラが別の部屋で過ごすようになってからずっと溜めていた涙をユイは一度に溢していました
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バニラは何度も何度もユイのほっぺをぬぐっても涙はどんどんあふれ、ぜんぜんぬぐいきれません
「泣きすぎだよ」
バニラは優しく微笑み、そしていつのまにか溜まっていた涙を同じようにあふれさせました
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二人はいつまでも涙を溢し続け、バニラはユイを、そしてユイはバニラを優しくぎゅっと抱きしめて二人最後の朝を迎えました
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「行かなくちゃ」
そう一言小さく声に出し、そしてバニラはミモザの種を自分のポッケにしまって部屋のドアを開けました
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明るくなり始めた空の不思議な色、綺麗な光はドアの隙間をそっと抜け、バニラを温かく包みます
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光に照らされたバニラはの身体はユーカリの葉っぱを掴むことが出来なかったことを忘れてしまうほどに動くようになり、足は自然とオセアニア区の大きなユーカリの木の方へと向います
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ユイは何も言わずバニラの後ろを歩き背中を見つめ、バニラと過ごした日々のことを思い出していました
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どんなことでも頭の中へ浮かび、そっと心の奥へとしまわれていきます
悲しいこと寂しいこともたくさんあったコアラの家での二人の思い出
いつだって二人一緒に泣いて、笑って過ごした大切な思い出はきっと忘れることがありません
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「ポッケの中のミモザの種は幸せの種。きっと大きく育ってく───」
あと少し、これからは離れてしまう二人
一緒に芽を出し長い時間をかけて大きく育っていくミモザの木
きっとそれは二人の心を繋いだままにしてくれると信じ、種の入ったポッケをそっと触り、ユイはふと“種の源”ヒロキの庭のミモザの木を眺めました
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夜の間は気がつかなかった風景───
朝日の中で見たミモザの木は満開に咲いていました
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本当ならもう花も終わっているはずのミモザの木は眩しく、黄色く輝き、ヒロキがまだ暮していたあの頃のように立派な枝を風に揺らせていました
バニラを少しでも明るく送り出すために“ヒロキがかけてくれた魔法”だとユイは信じ、「ヒロキさんらしいな」と小さく呟き、どんどんと前を行くバニラを早足で追いかけました
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「お姉ちゃん、待ってよお姉ちゃん」
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「たんぽぽだ。たんぽぽは咲いてるんだ。今年もこんなにたくさんかわいらしく咲いているんだ───」
大きなユーカリの木に向かう途中でたくさんのたんぽぽが咲いていることに私は気がついた
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どこにでも咲いている花だけど、どこで出会っても優しさをくれる花、たんぽぽ
私はたんぽぽが大好きだった
「───きっとお母さんも、ワカちゃんとハヤトも、ヒロキさんはもちろんのこと、お父さんも大好きなんだろうな」
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かわいらしく咲いているたんぽぽの傍に綿毛を見つけた
まだ丸い綿毛、少し欠けた綿毛───色々なたくさんの綿毛

綿毛は風に乗り色々な所を旅して回る
そしてお気に入りの場所を見つけて、またお花を咲かせるんだ
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「よかったら私と一緒に来てくれない?」
綿毛にそうお願いをした
出来ることなら私の傍でも咲いていてほしい、みんなの傍でかわいらしく咲いていて欲しい
そう思った
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すると一本の綿毛がこくりと頷いた
ただ春の風に揺れたってわけじゃない、本当に頷いてくれたんだ───
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「痛かったらごめんね」
私は頷いてくれた綿毛をなるべく優しく切り取った
そして潰れてしまわないようにそっとポッケの中へとしまった
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「後はあの木に登るだけだ」
一本の大きなユーカリの前で立ち止まり、幹や枝、そして葉っぱの形をよく確かめた
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間違いない、この木を登ってお母さんは旅立った
あの時途中まで追いかけたからちゃんと覚えてる
この大きなユーカリは雲の上、もっともっとずっと上まで伸びている
───金沢動物園のコアラのためのユーカリだ
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「ユイ、寂しいけれどここでお別れ。一度さよならだよ」
私がそう伝えるとユイはやっぱりまた泣き出した
でも大丈夫、もうユイはちゃんとわかっている
このお別れはどうしてもしかたないことを、そしてまたいつか会える日が来るということを
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ユイの涙は止まらない
ぼやけて何も見えなくなりそうなくらい涙は溢れ続けていた
「動物園が始まっちゃったら大変だから私は行くね」と言うとユイは泣きわめいたまま何度も何度も頷いた
今では私よりも身体の大きなユイ、そのときだけは何故かとても小さく見えた

───私達が一緒に暮らし始めたあの日のように
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「ありがとう」
私は最後の言葉をユイに言う
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「ありがとう」

それが金沢動物園、オセアニア区でユイから聞いた最後の言葉だった


オセアニア区の大きなユーカリの木を登っていくのは簡単なことじゃない
普段よりもずっと高く伸びているユーカリの木だ、何故か身体は疲れないけれどやっぱり時間はかかる
ただ上を見て登っている間にはたくさんの思い出が青い空に浮かび上がってきてくる
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楽しい毎日だった
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本当に楽しい毎日だったんだ
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楽しかったね、ユイ
ユイは私の妹、これからもずっと、ずっとかわいい私の妹
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楽しかったよ、ユイ
毎日毎日本当に、本当に楽しかったよ
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思い出した───お母さんのポッケ、あったかかったな

一番あったかい場所
私はそこへ行くのかもしれないな───
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───お姉ちゃんが大きなユーカリの木を登っていく
私はあの姿を忘れない、絶対に忘れない
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登ってきた太陽が眩しい
けれど目を離しちゃ駄目なんだ
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窓の向こう、段々と遠くへ飛んでいく鳥たちは一度でも目を離すともう二度と見つけることは出来なかった
きらりと光る飛行機だってそうだった
一度でも目を離しちゃ駄目、特に大切なことからは絶対に目を離しちゃ駄目なんだ
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「ありがとう」
私はお姉ちゃんにそれだけしか言えなかった
もっともっとたくさん伝えたい事があったはずなのに「ありがとう」ただそれだけだ
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お姉ちゃんが青い空に溶けていく
オセアニア区を離れ、空の向こうへだんだんと
だんだんと青い空に溶けていく

一度お別れ、さよならだ
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「お姉ちゃん、今まで本当にありがとう」
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「ありがとう」は不思議な言葉
みんなを笑顔にさせる、そんなことば「ありがとう」

「ありがとう」は別れの言葉
綺麗な涙をみんなにそっと落とさせる、そんな別れの言葉

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「ありがとう」は大切な言葉
心を込めて伝えればただそれだけでも大丈夫
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「ありがとう」


「ありがとう」
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バニラ、今まで本当にありがとう
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「あっ、お母さん」
お空の上で最初に出迎えてくれたのはやっぱりお母さんだった
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何も言わずただ笑顔で私のことをぎゅっと抱きしめる
懐かしい匂いと懐かしい温かさ
やっぱり私はお母さんの子供だ───
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綿毛をそっと取り出して、コアラのポッケからそっと優しく取り出して
まん丸欠けてしまわないよう丁寧に、そっと優しく取り出して
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綿毛にふーっと息を吹きかけて、一人一人が旅の空
春の風にすーっと吹かれて思い思いに旅の空
オセアニア区へアメリカ区へ、ユーラシア区、アフリカ区そしてほのぼの広場のみんなの所へ
一人一人が思い思いに旅の空
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バニラのことを好きだったみんなの所へ優しさ持って旅の空
コアラを好きなみんなの所へ愛情込めて旅の空

優しい春風、綿毛をそっと
お空の上のみんなの所へ───
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バニラ
大好きなコアラ

金沢動物園で暮らしたかわいいコアラ
みんなのバニラ
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by bon_soir | 2017-05-10 23:42 | 金沢動物園 | Comments(10)
ユイと春の願い
金沢動物園で暮らすコアラ、ユイ
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春が終わってしまったかのような暑い日、それは初夏のような眩しい陽射し
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あのミモザも花も散りだして、ヒロキがいれば今頃きっと食べて歩いてる
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そんな速い季節の流れに置いていかれないように、急いでたんぽぽ咲き出した
春のそんなオセアニア区
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楽しい季節のはずなのに、今ユイは部屋に一人
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大好きなお姉ちゃん「バニラ」は今、別のお部屋で過ごしていました
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どんなにお客さんが賑やかにしていても、かわいいお花がどんなにたくさん咲いていても
コアラの家はとても静か
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仲良しの二人、ずっと一緒に暮らしてきた二人が揃わなければ楽しいコアラの歌は聞こえてこない

一人寂しい思いの中で健気に過ごし、寂しそうに時々微笑むユイ
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今はただ、バニラがまた戻ってきてくれる日を信じ、色とりどりでも寂しい春を、なぜか無表情で進む季節の流れを涙こらえて眺めていました
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「ポッケの中のどんぐりはいつも私に微笑みかけてくる───そう、お姉ちゃんがくれたあのどんぐりがそっと優しく」
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「部屋に一人でいること、ここがこんなに静かでこんなに寂しくて、そしてこんなに心細いなんて知らなかった」
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「私の傍にはいつだって笑顔があった。今までずっと優しい笑顔に励まされていたんだ」
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「コアラの笑顔にずっと、そっと励まされてずっと───」
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「飼育係のお姉さんにお姉ちゃんのことは聞けないよ。だって怖くてしかたない」
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「何も聞けないよ、怖くて怖くて何も、何も聞けないよ」
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「お姉ちゃん、今どうしているのかな。いつものように笑っているのかな。今頃夢でも見ているのかな」
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「こうして優しく抱っこして貰っているのかな」



雲のない空はどんなに晴れていても何故か寂しい
風が無ければ木はささやかない、自然の声は聞こえてこない
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そんなどこか居心地悪い春の日
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ユイは一人コアラの家からそっと抜け出し、思い出の場所へと歩いていきました
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それはバニラと二人、まだまだ小さかった頃に出かけた場所
───アメリカ区の小さなロッキーマウンテン
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楽しくわいわいと騒ぎながら歩いていったあの日と違い、遠く感じるアメリカ区
長く感じる一人の時間
ユイはただ前を見つめ頭にバニラの顔を思い浮かべ、そしてできる限りの早足で向かいました
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「お姉ちゃんと見たあのチューリップ達に会いたい───力強くそっと伸びてころりとふわっとかわいく咲く、あのチューリップ達に会いたい」
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「きっと今頃、きっとあそこで咲いているはず───きっと、きっとそう」
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静かな静かな金沢動物園
アメリカ区に着いたユイをそっと眺める動物がいました
プロングホーンのブッチです
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ロッキーマウンテンのショートカットの階段を一段一段登っていくユイを見つめ、ブッチはなんども頷くように優しく微笑みました
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「───ユイ。そうだ、お花は今綺麗に咲いている。かわいい女の子を笑顔にするように一生懸命に咲いている」
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「まるで君のことを待っていたように、たくさん咲きだし、そして揺れているんだよ」
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「そうだ、そこに咲いているだろう、あそこにもあっちにも、みんな咲いて君を待っていたんだよ」
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「みんな揺れて笑っているだろう───ここには風が吹いている。小さなロッキーマウンテンにはいつだって風が吹いている」
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小高い丘にたくさんのお花、優しく咲いたチューリップ
みんなユイに話しかけているようでした
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春の風に花は揺れ、会いに来た動物達もみんな一緒に微笑んで
春の優しさ楽しさそっと伝え、また来年と希望をつなぐ
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「ありがとう。そしてお願い───」
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ユイは花と一緒に風に吹かれ、話をしながら一緒に揺れ
溢した涙は土に染み、それを眺め自然の優しさいっぱい感じ───
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いつのまにか小さな笑顔を取り戻したユイ
「また来るね───」とそっと手を振り、小さなロッキーマウンテンを後にしようと階段を降りていきました
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「ユイ」
呼ぶ声の方を振り返ればそこにはブッチ
プロングホーンのブッチがユイに声をかけました
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「ブッチさん。お昼寝かと思って声かけなかったの。こんにちは、なんだか久しぶりになっちゃった」
ユイはブッチの傍へ行き、まだ少し涙のあとが残る笑顔でそっと腰掛けました
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「バニラの様子はどうなんだい」と心配するブッチに「お姉ちゃんはきっと大丈夫」と自分にも言い聞かせるように話し、ポッケの中のどんぐりを見せてもう一度微笑みました
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「お花を、チューリップを眺めてたら元気になった。ここは風も気持ちがいいね」
そう話すユイにブッチはそっと頷きました

「バニラにお花を摘んでいってあげたらどうだい? バニラも元気が出るかもしれない」
ブッチはユイに微笑みます

「それは、駄目。きっと駄目なの。お姉ちゃんもきっと喜ばない」
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「お花を見ること、触れることは本当に優しいこと、素敵なこと。でも今ここで摘んでいったらきっとすぐに萎れてしまう。ここで風に吹かれながら咲いていればもっともっと大勢の動物達に会うことができる。もっと長い時間かわいく咲いていられるよ。お姉ちゃんもきっとすぐに気がつき、そう考えるはず。お姉ちゃんとお花を見にいった時同じようなこと、もっと優しくそう言っていた。私は優しいお姉ちゃんに優しいことを教わった。大切なお姉ちゃんに色々なことを教わってきた。お花達には元気になったお姉ちゃんと一緒にまた見にくる、会いに来ることにしたの。だからさっきお花に、神様にお願いしたの───お姉ちゃんが元気になりますように、って───」
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「そうか、そうだな。それがいい。ユイ、君達は優しい───本当に優しいね」
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願いをこめて過ごすこと
願う前に想い、心に抱いて毎日過ごすこと
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それはきっと辛く寂しく、大切なこと
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みんな誰かに寄り添い優しさ貰って生きていく
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お花、植物、土、大地
風と太陽、全ての自然
───自然と自然に力を貰って生きている

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楽しい時、上手くいっているように感じている時
心がはしゃぎ浮かれている時
見えなくなっていること必ずある
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どんなに好きだと思っていてもどんなに大切だと考えていても、動物達にはいつでも会えるわけじゃない
いつまでも会えるわけじゃない
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動物達を想うこと、大切だというのなら日々忘れずに想うこと
それからはじめて願うこと、願い続けるということ
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願うだけなら叶わない

大切なことなのに忘れてる
大変なことが起こるまで気がつかない


「帰ろう。オセアニア区へ」
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「お母さんの写真が待つ、あのオセアニア区へ早く帰ろう───」
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「私達はコアラ。金沢動物園で暮らすコアラ」
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by bon_soir | 2017-04-20 07:00 | 金沢動物園 | Comments(12)
ユイのポッケにどんぐり一つ



金沢動物園で暮らすコアラ、バニラとユイ
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ずっと一緒、くっついて暮してきた二人
お姉ちゃんのバニラ、そして妹のユイ
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今、同じ家のままだけど少しだけ距離は離れ、二人はのんびりのんびり
のんびりと暮らす毎日
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時々は前のように肩寄せあって小さな声で話をする
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そんなバニラとユイ、オセアニア区のコアラの家
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悲しいこと(☆☆☆☆☆)があってからずっと涙をこぼし続けてきたユイ、いつも傍にいたバニラ
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オセアニア区の大きなユーカリに見守られる動物達の誰も気が付かない小さな物語
誰よりも優しいコアラ“バニラ”の誰も知らない物語
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「ユイは私の大切な妹───ユイが笑って私に話すこと、私がいつでも笑顔になれるそんなこと」
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───あの日からユイの笑顔は変わった
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今までよりももっともっと輝いて、もっともっと幸せそうな優しい笑顔
何度もあった悲しいことをそっと優しく包んでやわらげる、そんななにより素敵な笑顔───

それは“お母さんの笑顔”と一緒だった
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ユイはそんな笑顔で私に言う

「お姉ちゃん、ポッケの中に赤ちゃんが入っていった」
「お姉ちゃん、ポッケの中の赤ちゃんが少し大きくなってきた」
「お姉ちゃん、ポッケの中の赤ちゃんがもぞもぞ動いてるよ」
「お姉ちゃん、ポッケの中の赤ちゃんが小さな小さな小さな小さな声を出した」
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ユイは幸せそうだった
飼育係さんもお客さんもみんな、みんなが笑顔で、みんながユイを眺めていた

でもある日、ユイからそんな笑顔が消えた

「お姉ちゃん、ポッケの中の赤ちゃんが動いていないの───」
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「眠っているだけだよ。コアラだもん、長いこと眠っているだけ───」
私の言葉を遮るようにユイは何度も首を振った
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「お姉ちゃん、言わなかっただけ。もうしばらくこのまま、このままなんだ───」
ユイの目から最初はぽろぽろと、そしていつのまにかたくさんの涙が溢れ出していた

気がついてからもしばらくユイは頑張って笑っていたんだろう
みんなを心配させないように、もう一度動き出すと信じて───明日にはまた心から笑えるように
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しばらくして飼育係さんがユイのポッケの中をそっと覗く
ユイは飼育係さんの顔を見ようとはしないで遥か遠くを眺めていた
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飼育係さんは手で顔を覆い肩を落とし、ふらふらと戻っていく
私の心が悲しさでいっぱいになっていく
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ユイにもそれは伝わった、きっとわかってしまった
本当は最初からわかっていたことを、もう一度確認してしまっただけのことなのかもしれない
泣いてない、もちろん笑ってもいない
ただ一言呟いた
「お母さん、私はお母さんのようになれなかった、みたいだよ」

ユイから表情が消えてしまっていた───
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そのまま時間は過ぎていく
楽しいことがあっても悲しいことがあっても、時間だけはどんなときでも変わらず過ぎていく
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夕暮れオセアニア区が夜へと変わる
冬の始まり夜空には、冬の星座とたくさんの星
青い夜空を飛んでくる、青い羽の一羽の鶏
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ユイのポッケをちょっとつつく
優しくそっと、ちょっとつつく
そんな不思議な青い羽の不思議な鳥
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今が何時かなんてわからない
星空見えても昼なのか、青空見えても夜なのか
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ユイのポッケがぼんやり光る
小さな小さな、小さなコアラがポッケの中から顔を出す
青い羽の鳥の背中にそっと乗る

小さなコアラ、ユイの赤ちゃん
儚くそっと笑ってる
聞き取れない、声にもならない小さな声でユイに言う
口の動きを見ていればすぐにわかる

「あ り が と う」

私の目から涙が溢れる
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ユイに声をかけたけど、私はちゃんと喋れなかった
言ってあげたいことがあったのに、私はちゃんと喋れなかった
きっとユイには何も聞こえていない
ユイはただぼんやり空を見上げ、もう枯れてしまっていた涙の最後のひと粒をぽろりとこぼした
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ぱたぱたぱたぱた
小さなコアラを背中に乗せて青い羽の鳥が飛んで行く
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大きなユーカリの大きな枝の間を抜けて、オセアニア区の上でぐるっと大きく一回り

ぱたぱたぱたぱた、ぱたぱたぱたぱた
ふわっと浮かぶ白い雲の上まで、青空の中、星空の中へ

ぱたぱたぱたぱた
小さなコアラを背中に乗せて青い羽の鳥が飛んで行く
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「ユイ、ユイはちゃんとお母さんだよ。その子の大切なただ一人のお母さんだよ───」
私はさっき言ったことをもう一度言った
でもユイにはまた届いていない、きっと届くはずがない

お腹のポッケが空っぽになる、考えてもなかった出来事でポッケの中には何も無くなってしまう
きっと、そんなに悲しいことは他にない

ユイは疲れたのかいつのまにか眠っていた
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ユイが見る夢どんな夢───
コアラのお母さんが見る夢どんな夢───
小さな赤ちゃん抱っこする、小さな赤ちゃんおんぶする
風に吹かれて木に揺れて、二人で笑って二人でお昼寝
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ユイが見る夢どんな夢───
コアラのお母さんが見る夢どんな夢───
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あの日からユイに私は話しかけることが出来ないでいた

ただ毎日お願いだけをしていた

「ユイを守ってあげてね、お母さん───」
オセアニア区の大きなユーカリの木よりももっと上を見つめ、どこかで見守ってくれているお母さんにただ毎日お願いをして過ごした
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「お姉ちゃん、なんでコアラにはポッケがあるの?」

クリスマスが近づいたある日、ふと遠くを眺めながらユイが言った
ユイの方を見ると目に涙が浮かんでいる
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「ポッケ、無くてもいいよね」

ユイの声はどこか冷たく、かわいい顔は涙に濡れ、そしてその日は少しも動かず少しもユーカリを食べなかった


「ユイ、駄目だよ───思い出してよ、私達のお母さんのポッケのことを。あの温かくって柔らかくって優しくて幸せだった、あのポッケのことを思い出してよ───」
そう言えばいい、と思っても言葉に出来ない
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私にはユイの気持ちがよくわかる
そして勇気の出ない私は弱虫だ
大切な妹一人励ましてあげることが出来ない
あの日からずっと、私はずっと弱虫コアラだった
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元気がないユイを見ていると何かしなくちゃって思う
それはユイのためかもしれない、弱虫コアラのままの私のためなのかもしれない

「───お母さん、ヒロキさん」
大好きだった二人の顔がぼんやり浮かぶ
私は外へのドアをそっと開け、ヒロキさんのお庭へと歩いた
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「何も変わってないね、ヒロキさん
涙で霞むヒロキさんの庭、そしてヒロキさんの写真を眺めているとふと小さく声に出た
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すると今にも開きそうなドアの向こう、中庭から声が聞こえたような気がした
「ヒロキさん? ヒロキさんなの?」

少し隙間の出来たドアの向こうにそっと浮かぶヒロキさんの顔
それが本当のことなのか、私の頭の中だけのことなのかはわからない
変わらない、優しいヒロキさんが今目の前にいる
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(バニラ、君は優しいコアラ、コアラの女の子だ。そしてみんなが言うとおり少し不思議な不思議コアラ、昔からそうだろう。ユイのために出来ること、当たり前のことばかり考えていたってしかたないよ。君がすること、なんでもみんなを楽しくさせてきた。想像力だ、バニラ。君が思っているほど君は駄目じゃない)


「ヒロキさん、私駄目なの。私は弱虫、弱虫コアラなの。大切だと思っていても、思っているだけ。怖くて怖くて、何か言ってあげる、してあげることも出来ない弱虫コアラなの」
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(バニラ、君は弱くない、虫でもない。そうだ、弱虫コアラなんかじゃないよ。ユイのために何かをしなくちゃいけないよ、そしてきっと何かしてあげられるはずだ。想像するんだ、楽しいことを。ユイを笑わせる、なんだか楽しいことを想像するんだ。大切な妹のことを想い、想像する。君が笑った時、きっとユイも笑顔になるよ)
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「ヒロキさん」


(バニラ、僕の庭の花壇を見てごらん。もし君の顔に笑顔が戻ったのなら、今度は君が、君がユイを笑顔にしてあげるんだ。いいね、バニラ───)


私はヒロキさんの庭の花壇を見た───
季節外れのたんぽぽ一つ、ヒロキさんも私もユイも大好きな、黄色いたんぽぽ一つ
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なんだかニコニコ笑ってる
黄色いたんぽぽ一つ、花壇のすみに咲いていた

「ヒロキさん───」
振り返るともうそこにヒロキさんはいない
───大丈夫、夢でもなんでも大丈夫
ヒロキさんが言ったとおり私は笑顔になっていた
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涙をぬぐって走り出す
大きなユーカリの木が揺れて応援してくれる
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ユイの笑顔が頭に浮かぶ
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楽しい毎日、お母さんも隣で笑うあの楽しい日々
色々なことが頭に浮かぶ
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「あの日からずっと、ユイはポッケを見ていない」
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「お母さんになれなかった───そう考えてしまっているから駄目なんだ」
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「ユイはちゃんとお母さんできていたのに、ポッケの中にかわいい赤ちゃんがちゃんと入ってたのに。赤ちゃん、笑顔でお空の向こうへ行ったのに───」
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「───それなのに」
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「ユイはポッケのことを見ようとしない」
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「ユイがこのまま、ユイがこのままポッケを嫌いになる前に」
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「大切なポッケを嫌いになって、そのまま嫌いなまま、笑顔も取り戻せなくなるその前に───」
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「私は何をすればいいんだろう、何してあげればいいんだろう」
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「ユイがそっと笑うには、可愛い笑顔を見せてくれるには、私は何をすればいいんだろう───」
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クリスマス前のオセアニア区
冬の風が吹き外を駆けるバニラの身体をだんだんと冷やしました
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アフリカ区へ向かう坂道の途中で少し休憩をして、「アフリカ区、それともユーラシア区かなぁ」と呟いたバニラ
ヒロキに言われたように一生懸命にユイのことを想い、そして笑顔になるその時を想像していました
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「ユイ、やっぱりポッケは大切だよ。あの温かさ、覚えてるでしょ。ポッケを嫌いになんかならないで、ユイ───」
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「ユーラシア区に行ってみよう」
そう呟いたバニラがあるき出したその時、藪の中からコロリと転がり出てきた物がありました
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それは一粒のどんぐり
リスたちが食べ忘れた、少し大きめの丸いどんぐりでした

「どんぐりさん?どんぐり君? どっちかわからないけどこんにちは」
爪を立てないように、そっとどんぐりを掴んだバニラ
秋のこと───ハヤト、そしてワカが旅立ってしまった日のことがどんぐりに写っているような気がして、ふと寂しく微笑みました
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「ワカちゃん、ハヤト、私達を見守っていてね」
ぎゅっとどんぐりを掴み、そっと呟いたバニラ
ゆっくりと手を開き、またどんぐりを見つめました
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その時風が吹き、どんぐりがぶるっと震えたような気がしました

「お帽子、無いんだね。落っことしちゃったのかな、忘れてきちゃったのかな。もう冬だもん、寒いよね」
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「そうだ───ねえ、温かい所に行かない? 連れてってあげる、決めた!」
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ユイのポッケにどんぐり一つ
ユイのポッケにどんぐり一つ連れていこう
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ユイのポッケにどんぐり一つ
ユイのポッケにどんぐり一つ入れておこう
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ユイのポッケにどんぐり一つ
ユイのポッケにどんぐり一つ笑っているよ
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ユイのポッケにどんぐり一つ
ユイのポッケに丸くてかわいいどんぐり一つ

ユイのポッケに、ユイのポッケにどんぐり一つ
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バニラは眠っているユイにそっと近づき、帽子の無い丸いどんぐりをそっとポッケの中にしまいました
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バニラはそっと自分の部屋に戻り、静かに振り返るとユイはまだ眠ったままでした
「おやすみ、ユイ」
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バニラは微笑み、そして自分も夢の中へと滑り込んでいきます
“夢を見るための準備”
今日一日いろいろなことを考え、いろいろな物を見てきたバニラにはたくさんの準備が出来ていました
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ユイの見ていた夢は途中から変わっていました
バニラがポッケの中へどんぐりをしまってからすぐのこと
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それはコアラのお母さんの夢
ポッケの中で赤ちゃんが育っていっていた、あの幸せなとき毎日のように見ていた
そんな夢でした

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コアラが見る夢どんな夢───
コアラのお母さんが見る夢どんな夢───
小さな赤ちゃん抱っこする、小さな赤ちゃんおんぶする
風に吹かれて木に揺れて、二人で笑って二人でお昼寝

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「なんだろう、なんでこんなに温かい、幸せな夢を見てしまったんだろう」
ユーカリの中でそっと目を覚ましたユイは、明るくなってきた窓の向こうを眺めながら今見た夢を思い返しました
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自分の顔が笑顔になっている、そのことには気がつかないユイ
でも気がついたのはポッケの中に何かがしまってある、ということ
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笑顔になっていたユイはあの日から今まで出来なかったこと
“ポッケの中を覗く”
そんなことが出来るような気がしました
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そっと手でポッケを開き、中を覗いたユイ
そこにはコアラのような顔が描いてあるどんぐりが一つ入っていました
そっと取り出してどんぐりを見つめました
裏側には小さな文字で「あ り が と う」と書いてあります

「お姉ちゃん」
ユイはそう言いながら、隣の部屋を見るとバニラは微笑みながらまだ眠ったままでした
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「お姉ちゃん、こんな下手くそな顔描いちゃ、どんぐりがかわいそうだよ」
そう言ってユイは笑いました
久しぶりに見せるその笑顔はどんぐりに描かれたコアラの笑顔と同じくらい楽しそうに、そして輝いていました
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コアラの姉妹が今日も暮らす、金沢動物園のオセアニア区
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この先どんなことがあったとしても、二人はずっと仲良し姉妹
いつも二人で笑って暮らす、不思議コアラの仲良し姉妹
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二人で一緒に楽しんで、二人で一緒に喜んで
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二人で一緒に涙をこぼす
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バニラとユイ
かけがえのないコアラの二人
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「ユイのポッケにどんぐり一つ、私のポッケにもう一つ」
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「ユイのポッケにどんぐり一つ、みんなのポッケにどんぐりたくさん一つづつ」
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「ユイのポッケにどんぐり一つ、帽子が外れたどんぐり一つ」
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「ユイのポッケにどんぐり一つ、魔法をかけたどんぐり一つ」






    

by bon_soir | 2017-03-03 00:45 | 金沢動物園 | Comments(6)
変わったこと、変わらないこと
金沢動物園で暮らすコアラ、ユイ
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一年前に悲しいお知らせを聞いたのは、日向がまだ暑い夏の終わりかけ
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コアラ達の家の外にはお花を持ったお客さん
気がつくユイ
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「そうか、今日はそんな日───もう1年、か」
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オセアニア区の青い空を見上げたユイは一言呟き、一年前のあの日から今日までのことをふと考えました
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家の中には水が流れていく音
それは、朝時々聞こえるいつもの音
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「お掃除ありがとう」
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「ワカちゃんも起きてる。そうだよ、お部屋を綺麗にしてくれてるんだよ」
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「いつもと同じだね。お水の音がした後にはお部屋中が綺麗になってるね」
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「夏の間、暑い日にはお水の音はどこか涼しげ。冬になるとお水の音が何故か少し嫌になる」
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「冬になったらカンガルー達もお水には浸かれないね。冷たくって、きっと手足がかじかんじゃう」
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「季節の巡りは変わらない。去年も夏は暑かったし、冬は寒かった。晴れた日には空が青い───でもそれ以外は一年で色々なことが変わったな」
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「ワカちゃんのポッケからはハヤトくんが出てきた」
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「のんびりコアラのワカちゃん、いつの間にかお母さんになった」
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「ハヤトくんが大きくなるのに一年なんて必要なかった。もう私達と同じくらいになれたもんね」
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「またあと一年経ったら───また来年、ヒロキさんの家のところにお花を置いてもらえる日になったら、きっと大きなコアラになるね」
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「ハヤトくんは変わっていくんだね」
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「ワカちゃん、ハヤトくん、一年で二人は変わったのに、お姉ちゃんと私はなんだか変わってない気がする」
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「私が気がついてないだけなのかもしれないけれど、お姉ちゃんと私は変わってない」
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「あ、違う───お母さんがいなくなってしまった。私とお姉ちゃん、このコアラの家で凄く変わったことだった」
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「オセアニア区の大きなユーカリ、それを越えて空の上へ───高く高く登っていったって、泣きながらお姉ちゃんは言った」
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「変わらないこともたくさんある。変わったこと、変わってしまったこともたくさんある。動物園にも色々なことがある」
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「ナミヘイさんも引っ越しちゃった。残念だけどハヤトくんは会えなかった。やっぱり会わせてあげたかったね」
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「のんびり暮らす私達。暮らしているのはオセアニア区」
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「変わらないことは嬉しいこと、変わっていくことも嬉しいこと」
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「変わらないことは悲しいこと、変わってしまうことも悲しいこと」
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「いろいろ考えていると思い出す。お母さんのポッケのことを思い出す」
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「私たちはポッケの動物。ポッケの中が一番好き」
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「ハヤトくんもワカちゃんのポッケを探してる。お母さんのことをいつだって探してる」
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「でも見つけたってもうポッケの中には入れない。みんな大きくなっていくからね」
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「変わっていくね、変わってしまったね。変わらないね、何も変わらないね───」
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「明日はどうなるんだろ、来週はどうなるんだろう。来月はどうなるんだろう───また一年経ったらどうなっているんだろう」




   

by bon_soir | 2016-08-31 07:00 | 金沢動物園 | Comments(2)