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ユイのポッケにどんぐり一つ



金沢動物園で暮らすコアラ、バニラとユイ
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ずっと一緒、くっついて暮してきた二人
お姉ちゃんのバニラ、そして妹のユイ
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今、同じ家のままだけど少しだけ距離は離れ、二人はのんびりのんびり
のんびりと暮らす毎日
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時々は前のように肩寄せあって小さな声で話をする
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そんなバニラとユイ、オセアニア区のコアラの家
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悲しいこと(☆☆☆☆☆)があってからずっと涙をこぼし続けてきたユイ、いつも傍にいたバニラ
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オセアニア区の大きなユーカリに見守られる動物達の誰も気が付かない小さな物語
誰よりも優しいコアラ“バニラ”の誰も知らない物語
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「ユイは私の大切な妹───ユイが笑って私に話すこと、私がいつでも笑顔になれるそんなこと」
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───あの日からユイの笑顔は変わった
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今までよりももっともっと輝いて、もっともっと幸せそうな優しい笑顔
何度もあった悲しいことをそっと優しく包んでやわらげる、そんななにより素敵な笑顔───

それは“お母さんの笑顔”と一緒だった
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ユイはそんな笑顔で私に言う

「お姉ちゃん、ポッケの中に赤ちゃんが入っていった」
「お姉ちゃん、ポッケの中の赤ちゃんが少し大きくなってきた」
「お姉ちゃん、ポッケの中の赤ちゃんがもぞもぞ動いてるよ」
「お姉ちゃん、ポッケの中の赤ちゃんが小さな小さな小さな小さな声を出した」
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ユイは幸せそうだった
飼育係さんもお客さんもみんな、みんなが笑顔で、みんながユイを眺めていた

でもある日、ユイからそんな笑顔が消えた

「お姉ちゃん、ポッケの中の赤ちゃんが動いていないの───」
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「眠っているだけだよ。コアラだもん、長いこと眠っているだけ───」
私の言葉を遮るようにユイは何度も首を振った
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「お姉ちゃん、言わなかっただけ。もうしばらくこのまま、このままなんだ───」
ユイの目から最初はぽろぽろと、そしていつのまにかたくさんの涙が溢れ出していた

気がついてからもしばらくユイは頑張って笑っていたんだろう
みんなを心配させないように、もう一度動き出すと信じて───明日にはまた心から笑えるように
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しばらくして飼育係さんがユイのポッケの中をそっと覗く
ユイは飼育係さんの顔を見ようとはしないで遥か遠くを眺めていた
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飼育係さんは手で顔を覆い肩を落とし、ふらふらと戻っていく
私の心が悲しさでいっぱいになっていく
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ユイにもそれは伝わった、きっとわかってしまった
本当は最初からわかっていたことを、もう一度確認してしまっただけのことなのかもしれない
泣いてない、もちろん笑ってもいない
ただ一言呟いた
「お母さん、私はお母さんのようになれなかった、みたいだよ」

ユイから表情が消えてしまっていた───
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そのまま時間は過ぎていく
楽しいことがあっても悲しいことがあっても、時間だけはどんなときでも変わらず過ぎていく
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夕暮れオセアニア区が夜へと変わる
冬の始まり夜空には、冬の星座とたくさんの星
青い夜空を飛んでくる、青い羽の一羽の鶏
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ユイのポッケをちょっとつつく
優しくそっと、ちょっとつつく
そんな不思議な青い羽の不思議な鳥
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今が何時かなんてわからない
星空見えても昼なのか、青空見えても夜なのか
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ユイのポッケがぼんやり光る
小さな小さな、小さなコアラがポッケの中から顔を出す
青い羽の鳥の背中にそっと乗る

小さなコアラ、ユイの赤ちゃん
儚くそっと笑ってる
聞き取れない、声にもならない小さな声でユイに言う
口の動きを見ていればすぐにわかる

「あ り が と う」

私の目から涙が溢れる
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ユイに声をかけたけど、私はちゃんと喋れなかった
言ってあげたいことがあったのに、私はちゃんと喋れなかった
きっとユイには何も聞こえていない
ユイはただぼんやり空を見上げ、もう枯れてしまっていた涙の最後のひと粒をぽろりとこぼした
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ぱたぱたぱたぱた
小さなコアラを背中に乗せて青い羽の鳥が飛んで行く
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大きなユーカリの大きな枝の間を抜けて、オセアニア区の上でぐるっと大きく一回り

ぱたぱたぱたぱた、ぱたぱたぱたぱた
ふわっと浮かぶ白い雲の上まで、青空の中、星空の中へ

ぱたぱたぱたぱた
小さなコアラを背中に乗せて青い羽の鳥が飛んで行く
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「ユイ、ユイはちゃんとお母さんだよ。その子の大切なただ一人のお母さんだよ───」
私はさっき言ったことをもう一度言った
でもユイにはまた届いていない、きっと届くはずがない

お腹のポッケが空っぽになる、考えてもなかった出来事でポッケの中には何も無くなってしまう
きっと、そんなに悲しいことは他にない

ユイは疲れたのかいつのまにか眠っていた
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ユイが見る夢どんな夢───
コアラのお母さんが見る夢どんな夢───
小さな赤ちゃん抱っこする、小さな赤ちゃんおんぶする
風に吹かれて木に揺れて、二人で笑って二人でお昼寝
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ユイが見る夢どんな夢───
コアラのお母さんが見る夢どんな夢───
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あの日からユイに私は話しかけることが出来ないでいた

ただ毎日お願いだけをしていた

「ユイを守ってあげてね、お母さん───」
オセアニア区の大きなユーカリの木よりももっと上を見つめ、どこかで見守ってくれているお母さんにただ毎日お願いをして過ごした
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「お姉ちゃん、なんでコアラにはポッケがあるの?」

クリスマスが近づいたある日、ふと遠くを眺めながらユイが言った
ユイの方を見ると目に涙が浮かんでいる
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「ポッケ、無くてもいいよね」

ユイの声はどこか冷たく、かわいい顔は涙に濡れ、そしてその日は少しも動かず少しもユーカリを食べなかった


「ユイ、駄目だよ───思い出してよ、私達のお母さんのポッケのことを。あの温かくって柔らかくって優しくて幸せだった、あのポッケのことを思い出してよ───」
そう言えばいい、と思っても言葉に出来ない
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私にはユイの気持ちがよくわかる
そして勇気の出ない私は弱虫だ
大切な妹一人励ましてあげることが出来ない
あの日からずっと、私はずっと弱虫コアラだった
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元気がないユイを見ていると何かしなくちゃって思う
それはユイのためかもしれない、弱虫コアラのままの私のためなのかもしれない

「───お母さん、ヒロキさん」
大好きだった二人の顔がぼんやり浮かぶ
私は外へのドアをそっと開け、ヒロキさんのお庭へと歩いた
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「何も変わってないね、ヒロキさん
涙で霞むヒロキさんの庭、そしてヒロキさんの写真を眺めているとふと小さく声に出た
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すると今にも開きそうなドアの向こう、中庭から声が聞こえたような気がした
「ヒロキさん? ヒロキさんなの?」

少し隙間の出来たドアの向こうにそっと浮かぶヒロキさんの顔
それが本当のことなのか、私の頭の中だけのことなのかはわからない
変わらない、優しいヒロキさんが今目の前にいる
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(バニラ、君は優しいコアラ、コアラの女の子だ。そしてみんなが言うとおり少し不思議な不思議コアラ、昔からそうだろう。ユイのために出来ること、当たり前のことばかり考えていたってしかたないよ。君がすること、なんでもみんなを楽しくさせてきた。想像力だ、バニラ。君が思っているほど君は駄目じゃない)


「ヒロキさん、私駄目なの。私は弱虫、弱虫コアラなの。大切だと思っていても、思っているだけ。怖くて怖くて、何か言ってあげる、してあげることも出来ない弱虫コアラなの」
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(バニラ、君は弱くない、虫でもない。そうだ、弱虫コアラなんかじゃないよ。ユイのために何かをしなくちゃいけないよ、そしてきっと何かしてあげられるはずだ。想像するんだ、楽しいことを。ユイを笑わせる、なんだか楽しいことを想像するんだ。大切な妹のことを想い、想像する。君が笑った時、きっとユイも笑顔になるよ)
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「ヒロキさん」


(バニラ、僕の庭の花壇を見てごらん。もし君の顔に笑顔が戻ったのなら、今度は君が、君がユイを笑顔にしてあげるんだ。いいね、バニラ───)


私はヒロキさんの庭の花壇を見た───
季節外れのたんぽぽ一つ、ヒロキさんも私もユイも大好きな、黄色いたんぽぽ一つ
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なんだかニコニコ笑ってる
黄色いたんぽぽ一つ、花壇のすみに咲いていた

「ヒロキさん───」
振り返るともうそこにヒロキさんはいない
───大丈夫、夢でもなんでも大丈夫
ヒロキさんが言ったとおり私は笑顔になっていた
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涙をぬぐって走り出す
大きなユーカリの木が揺れて応援してくれる
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ユイの笑顔が頭に浮かぶ
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楽しい毎日、お母さんも隣で笑うあの楽しい日々
色々なことが頭に浮かぶ
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「あの日からずっと、ユイはポッケを見ていない」
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「お母さんになれなかった───そう考えてしまっているから駄目なんだ」
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「ユイはちゃんとお母さんできていたのに、ポッケの中にかわいい赤ちゃんがちゃんと入ってたのに。赤ちゃん、笑顔でお空の向こうへ行ったのに───」
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「───それなのに」
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「ユイはポッケのことを見ようとしない」
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「ユイがこのまま、ユイがこのままポッケを嫌いになる前に」
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「大切なポッケを嫌いになって、そのまま嫌いなまま、笑顔も取り戻せなくなるその前に───」
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「私は何をすればいいんだろう、何してあげればいいんだろう」
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「ユイがそっと笑うには、可愛い笑顔を見せてくれるには、私は何をすればいいんだろう───」
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クリスマス前のオセアニア区
冬の風が吹き外を駆けるバニラの身体をだんだんと冷やしました
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アフリカ区へ向かう坂道の途中で少し休憩をして、「アフリカ区、それともユーラシア区かなぁ」と呟いたバニラ
ヒロキに言われたように一生懸命にユイのことを想い、そして笑顔になるその時を想像していました
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「ユイ、やっぱりポッケは大切だよ。あの温かさ、覚えてるでしょ。ポッケを嫌いになんかならないで、ユイ───」
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「ユーラシア区に行ってみよう」
そう呟いたバニラがあるき出したその時、藪の中からコロリと転がり出てきた物がありました
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それは一粒のどんぐり
リスたちが食べ忘れた、少し大きめの丸いどんぐりでした

「どんぐりさん?どんぐり君? どっちかわからないけどこんにちは」
爪を立てないように、そっとどんぐりを掴んだバニラ
秋のこと───ハヤト、そしてワカが旅立ってしまった日のことがどんぐりに写っているような気がして、ふと寂しく微笑みました
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「ワカちゃん、ハヤト、私達を見守っていてね」
ぎゅっとどんぐりを掴み、そっと呟いたバニラ
ゆっくりと手を開き、またどんぐりを見つめました
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その時風が吹き、どんぐりがぶるっと震えたような気がしました

「お帽子、無いんだね。落っことしちゃったのかな、忘れてきちゃったのかな。もう冬だもん、寒いよね」
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「そうだ───ねえ、温かい所に行かない? 連れてってあげる、決めた!」
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ユイのポッケにどんぐり一つ
ユイのポッケにどんぐり一つ連れていこう
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ユイのポッケにどんぐり一つ
ユイのポッケにどんぐり一つ入れておこう
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ユイのポッケにどんぐり一つ
ユイのポッケにどんぐり一つ笑っているよ
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ユイのポッケにどんぐり一つ
ユイのポッケに丸くてかわいいどんぐり一つ

ユイのポッケに、ユイのポッケにどんぐり一つ
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バニラは眠っているユイにそっと近づき、帽子の無い丸いどんぐりをそっとポッケの中にしまいました
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バニラはそっと自分の部屋に戻り、静かに振り返るとユイはまだ眠ったままでした
「おやすみ、ユイ」
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バニラは微笑み、そして自分も夢の中へと滑り込んでいきます
“夢を見るための準備”
今日一日いろいろなことを考え、いろいろな物を見てきたバニラにはたくさんの準備が出来ていました
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ユイの見ていた夢は途中から変わっていました
バニラがポッケの中へどんぐりをしまってからすぐのこと
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それはコアラのお母さんの夢
ポッケの中で赤ちゃんが育っていっていた、あの幸せなとき毎日のように見ていた
そんな夢でした

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コアラが見る夢どんな夢───
コアラのお母さんが見る夢どんな夢───
小さな赤ちゃん抱っこする、小さな赤ちゃんおんぶする
風に吹かれて木に揺れて、二人で笑って二人でお昼寝

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「なんだろう、なんでこんなに温かい、幸せな夢を見てしまったんだろう」
ユーカリの中でそっと目を覚ましたユイは、明るくなってきた窓の向こうを眺めながら今見た夢を思い返しました
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自分の顔が笑顔になっている、そのことには気がつかないユイ
でも気がついたのはポッケの中に何かがしまってある、ということ
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笑顔になっていたユイはあの日から今まで出来なかったこと
“ポッケの中を覗く”
そんなことが出来るような気がしました
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そっと手でポッケを開き、中を覗いたユイ
そこにはコアラのような顔が描いてあるどんぐりが一つ入っていました
そっと取り出してどんぐりを見つめました
裏側には小さな文字で「あ り が と う」と書いてあります

「お姉ちゃん」
ユイはそう言いながら、隣の部屋を見るとバニラは微笑みながらまだ眠ったままでした
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「お姉ちゃん、こんな下手くそな顔描いちゃ、どんぐりがかわいそうだよ」
そう言ってユイは笑いました
久しぶりに見せるその笑顔はどんぐりに描かれたコアラの笑顔と同じくらい楽しそうに、そして輝いていました
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コアラの姉妹が今日も暮らす、金沢動物園のオセアニア区
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この先どんなことがあったとしても、二人はずっと仲良し姉妹
いつも二人で笑って暮らす、不思議コアラの仲良し姉妹
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二人で一緒に楽しんで、二人で一緒に喜んで
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二人で一緒に涙をこぼす
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バニラとユイ
かけがえのないコアラの二人
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「ユイのポッケにどんぐり一つ、私のポッケにもう一つ」
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「ユイのポッケにどんぐり一つ、みんなのポッケにどんぐりたくさん一つづつ」
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「ユイのポッケにどんぐり一つ、帽子が外れたどんぐり一つ」
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「ユイのポッケにどんぐり一つ、魔法をかけたどんぐり一つ」






    

by bon_soir | 2017-03-03 00:45 | 金沢動物園 | Comments(6)
ユイのポッケに
金沢動物園で暮らすコアラ、バニラ
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バニラが考えるのは、妹ユイのポッケの中のこと
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気になって気になって、いつでも考えてしまう
そんなバニラ
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「ハヤトくんが心配」
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「ハヤトくんは今このお部屋の中にはいない。少し身体がだるいらしい」
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「きっと、外に植えられた不思議な草が怖いんだ」
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「いつのまにか周りじゅうに植えられているその草は“コキア”って言うらしい」
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「あっちにもこっちにも」
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「寒くなりだした頃に赤くなる、そう聞いた」
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「ハヤトくん、早く元気で戻ってきなよ」
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「ハヤトくんはお兄ちゃんっぽくなるんだよ」
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「ユイのポッケの中に赤ちゃんがいる」
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「ユイのポッケの中には赤ちゃんがいる」
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「ユイのポッケの中には赤ちゃんがいる」
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「知ってる?ユイのポッケの中に赤ちゃんがいるんだよ」
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「知ってる?いつかポッケから顔を出すんだよ」
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「みんな知ってる?ユイのポッケの中には赤ちゃんがいるんだよ」
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「ユイのポッケの中には赤ちゃんがいる」
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「ワカちゃん、ユイに色々教えてあげてね」
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「ワカちゃん、ユイに色々教えてあげてね」
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「ユイもお母さんになるんだよ」
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「ユイがお母さんになるんだよ」
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「ユイのポッケの中には赤ちゃんがいる」
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「ユイのポッケの中には赤ちゃんがいる」
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「ハヤトくん、早く元気になって戻っておいでよ」
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「ハヤトくんはお兄ちゃんっぽくなるんだよ」
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「ユイのポッケの中に赤ちゃんがいるんだよ」
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「ユイのポッケの中には赤ちゃんがいる」
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「私は伯母さんになる」
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「なんだか不思議だね」





by bon_soir | 2016-09-10 13:51 | 金沢動物園 | Comments(6)
あの家、庭には誰がやってくるんだろう
金沢動物園で暮らすコアラ、バニラ
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梅雨が明けたことを感じたバニラ
8月が来たことを感じる
そんなバニラ
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「窓から空を見上げたらわかる。また来た。暑い夏」
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「ヒロキさんが旅立って1年。もう1年。あの家にヒロキさんはもういない。あの優しかったおじいさんはもうずっといない」
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「今年はキウイの実を見に行かなかった。ヒロキさんの『ほら、あそこに実がなってるよ』って優しく言う声が聞こえないから、私達の笑顔を傍で見てくれるあの優しい顔がそこに無いから」
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「あのかわいいキウイの実を見に行かなかった──見には行けなかった」
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「きっと泣いてしまうから」
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「飼育係のお姉さんは言った。『もうすぐ8月24日だね』って少し寂しそうに小さな声で、そっと微笑み泣くように、そう言った」
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「そしてまた掃除をしている。いつもの様に私達のお部屋を綺麗に、静かに掃除してくれた」
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「ユイは『8月24日』という言葉が聞こえたみたいであのお庭の方を見つめ、ぽろぽろと泣いた」
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「暑い夏はただ暑いだけじゃない。寂しくてたまらない、そんな暑い夏」
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「私たちはこれから毎年感じ、思い出す。そんな暑さ。去年の夏のあの暑さ」
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「ヒロキさん──」
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「お母さん、お父さん、ヒロキさんと楽しくしてますか?」
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「飼育係のお姉さんは言う『またいっぱいのお花で溢れるよ』って、慰めてくれるようにそっと言う」
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「そうしたらユイと二人でお花を見にいこう。あそこにキウイの実はきっともう無いけれど、ヒロキさんのための綺麗なお花を見にいこう」
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「8月24日──ヒロキさん、どうしてその日に出掛けたの?どうしてその日に旅に出たの?」
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「ヒロキさん──お礼をちゃんと言えなかったよ、私もユイもヒロキさんにお礼を言えなかったよ」
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「ヒロキさん、いろんなお話ありがとう。楽しくって素敵なお話、本当にありがとう」
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「あの家、お庭には誰がやってくるんだろう」
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「今は誰もいないあの家、あのお庭には誰がやってくるんだろう」
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「誰も来ないわけじゃない。きっと誰かやってくる」
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「あの家、お庭には誰がやってくるんだろう」
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「今は誰もいないあの家、あのお庭には誰がやってくるんだろう」
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「オセアニア区には誰がやってくるんだろう」




    

by bon_soir | 2016-08-08 10:34 | 金沢動物園 | Comments(2)
バニラとユイ
金沢動物園で暮らすコアラ、バニラとユイ
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二人のお父さんはライタ
二人のお母さんはテルちゃん
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お父さんもお母さんも悲しいけれどもういない
金沢動物園にはもういない
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笑顔の二人だけど、時々思い出せばきっと涙をこぼしてる
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ぽろりと一粒
空を見上げてぽろりと一粒、きっと涙をこぼしてる
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二人は金沢動物園で暮らすコアラ
きっといつまでも金沢動物園のコアラ
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ライタとテルちゃん
二人に見守られて暮らす、そんなコアラ
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ふとした瞬間が本当にテルちゃんに似てきた、かわいい二人のコアラ
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それにしても大きな葉っぱばかり食べるバニラ
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朝早く、まだ交換前のユーカリを食べるユイの下
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変な所で眠るバニラ
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不思議なコアラ
不思議な姉妹
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特にバニラはどこか不器用
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そんなコアラ、大好きなバニラ
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みんな優しいから大丈夫
きっと、ずっと大丈夫
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by bon_soir | 2016-06-27 19:00 | 金沢動物園 | Comments(2)
バニラとオーストラリアの写真
金沢動物園で暮らすコアラ、バニラ
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晴れたオセアニア区はカンガルー達の楽しそうな声が溢れ、コアラ達の家の静かさが際立つようでした
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いつもの様に床で一休み
そんなバニラ
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眠りから覚めたユーカリのポットの中から今朝最初に見つけた物はたくさんの写真でした
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それはオーストラリアの動物達そして素晴らしい景色の写真
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バニラはまどろみながらその写真をゆっくりと眺め、静かな空気の中で色々なことを思い浮かべていました
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「コアラの写真がある」
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「今のハヤトくらいの頃かな。お母さんからオーストラリアの話を聞いたんだった」
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「お母さんがお母さんのお母さんから、お母さんのお母さんはそのまたお母さんのお母さんのお母さんから」
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「ずっとずっと、ずっとずっと大勢のお母さんから教えてもらい続けた、そんな話」
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「オーストラリア大陸とオーストラリアのユーカリの木の、大切なお話」
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「ユーカリの森の空は青い。どこよりも、世界中のどこよりも青い」
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「そんなお話」
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「たくさんのユーカリと、大勢のコアラ」
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「見てみたい。会ってみたい」
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「オセアニア区の大きなユーカリの木の隙間から見える空も青いのに、もっと青い、もっともっと青いんだって」
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「ユーカリの森で暮らすコアラが見てる空。それはきっとこの金沢動物園で見上げる空と繋がってる」
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「空を超えることが出来るなら、鳥のように空を自由に飛べるなら、きっとオーストラリアに行くことだって出来るんだ」
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「でも私はコアラ。私は金沢動物園で暮らす、ちょっと不器用な女の子のコアラ」
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「飛べないよ」
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「今頃お母さんは見てるのかな。ユーカリの森と青い空、そして大勢のコアラ達。楽しそうなこと、素敵なこと。みんなみんな見てるのかな」
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「お母さん、たまには私たちのことも眺めていてね、近くから見守っていてね」
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「でも今は見ていてくれてそう。オセアニア区の空がとっても青いもの」






   

by bon_soir | 2016-04-25 06:41 | 金沢動物園 | Comments(0)
バニラが見たオセアニア区

金沢動物園で暮らすコアラ、バニラ
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「今年も咲いたね」
と去年まではお母さんのテルちゃんと一緒に笑っていた春の風景
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テルちゃんが隣にいない今年の春
そして風景もがらりと変わってしまった今年のオセアニア区
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色々なことがバニラの気持ちを変えていきどこか不安な毎日のまま、オセアニア区には大好きだったはずの春が来ました
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毎年変わらないこと
それがどんなに安心できることなのか
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それとも変わっていくことに自分が慣れていかないだけなのか
バニラにはなにもわかりません
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あの待ち遠しかった春は今のバニラには伝わってきません
バニラが眺める窓の外、暖かくてお花の香りがするはずなのに戸惑うばかりのコアラ、バニラ
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暖かく晴れた春の始まりの日、飼育係のお姉さんはそんなバニラをつれて歩きました
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バニラを優しく抱いた飼育係のお姉さんが向かった先
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小鳥たちの声が聞こえてくる暖かい春の中へと進む二人
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「暖かいね」
バニラがそうささやくと飼育係のお姉さんは何も言わずただオセアニア区を見渡して優しく微笑んでいました
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飼育係のお姉さんの温かい気持ち
お母さんに抱かれていた時と同じ心が穏やかに落ち着く、そんな気持ち
そんな気持ちの中でバニラは感じ始めていました
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オセアニア区の大きなユーカリの木
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まだ工事は終わったわけではないのにバニラが外に出れば笑顔で集まってくれる人
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穏やかな春の風、暖かな日差し
大好きな黄色、お花が咲いた黄色いミモザの木
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どんなに景色が変わっても何も変わっていない春がここにはたくさんありました
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何も話さなくても伝わる思い
春の優しい風にあたり、春の音を聞き、お母さんの笑顔を思い出す
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いつのまにか時間は経ち、そして飼育係のお姉さんを見つめる度にバニラは感じるようになっていました
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一緒にでかけた春のお散歩
バニラにはとても大切な時間になり、いつまでも忘れない春の大切な始まりになりました
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「戻ろう、ユイが待ってるよ」
何も言わなかった飼育係のお姉さんが最初に言った言葉に頷いたバニラ
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バニラにいつもの笑顔が戻ってきていました
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変わっていくこと、変わってしまうこともあれば変わらないことだってきっとある
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大切なことは動物達の優しい気持ち、人の優しい気持ち
そんなことを感じ続けるということ
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より優しく変わり、いつまでも優しい気持ちを伝えること
寂しく悲しい春だから、いつもよりも必要な気持ちをしっかりとつかんでいなければいけないということ
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一緒に出掛けた春のお散歩
ずっとずっと忘れない暖かい春と温かい気持ちの春のお散歩
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「私の傍にはユイがいる」
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「ただ一人の妹、ユイがいる」
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「ワカちゃんもハヤトもみんなここで暮らしてる」
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「春は短い。楽しいって思わなければもったいない」
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「今度はユイとお散歩に出かけよう、ユーカリの葉っぱのお弁当を持ってお散歩に出かけよう」
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「二人で笑っておしゃべりをして、四つ葉のクローバーを探してみよう」
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「そう、それがいい」
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「ユイが窓の外を眺めてる」
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「きっとリスが跳ねたのが見えたんだ」
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「ユイ、今度は階段ができたんだよ。てっぺんからはどんな景色が見えるんだろうね」
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金沢動物園で暮らすコアラ達
儚く健気な動物達




   

by bon_soir | 2016-03-11 07:00 | 金沢動物園 | Comments(4)
テルちゃんとバニラ、どこまでも続くオセアニア区の大きなユーカリの木
金沢動物園で暮らすコアラ、バニラ
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大好きなお母さん、テルちゃんがいつの間にか隣にいなくなってから数日
どんな時でも下のお部屋にいるであろうお母さんのことを想い続け、毎日毎日心配をしていました
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大好きな飼育係さんに聞こうと思っても勇気が足りません
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妹のユイに相談しようと思っても、変に心配をかけたくないとも考えてしまいます
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バニラは毎日一人で心配し悩み、どこからかお母さんの声が聞こえてこないかなと大きな耳を澄ませていました
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でも何もわからない、変わらない日々が一日一日と過ぎていくばかりでした
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いつもの様に閉園の音楽が聞こえてきた夕暮れの金沢動物園
バニラがふと窓の外を見ると工事の壁の向こう側に陽は沈み、オセアニア区の大きなユーカリの木が影のようになっていくところでした
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バニラは寂しく微笑み、誰にも聞こえない小さな声で呟いていました
「今日も動物園が終わっていく。私たちはコアラ。暗くなれば何故かみんなが目を覚ます」
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「でもお母さんは今日も隣に帰ってこない。優しい笑顔はそこにない」
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「どうしてこんなに寂しいんだろう、どうしてこんなに辛いんだろう」
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「今さっきまでユイもワカちゃんも起きていたのに、またすぐに寝てしまった。そう、私はまた一人で考える。お母さんのことを今日も一人で考える」
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「考えてばかり。でもこれは夢を見るための準備にはならない。だから最近私は夢を見ていない。ただ眠っている」
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「でも悪い夢を見るよりはずっといい。そう、ずっといい――」


いつの間にかバニラの目にはたくさんの涙が溢れていました
見る物全てが涙でにじみ、ぼんやりとしか見えません
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今のバニラの目に映るのは光や色、みんなの境界線が溶けた不思議な景色でした
手探りで木を探し、ゆっくりと登るバニラ
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暗くなった窓の外をぼんやりと眺め、工事が始まる前のオセアニア区の風景を一生懸命に思い出してみました
カンガルー達の賑やかな声、季節ごとに咲くたくさんの綺麗な花、風に吹かれ飛んで行くタンポポの綿毛
そして夜空に輝くたくさんの星
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何もかもが懐かしく、その輝く思い出がバニラの瞳をもう一度濡らしていきました
「ヒロキさん、私は寂しいです」
バニラは小さな手で涙をぬぐい、みんなが寝静まった静かなコアラ舎の窓の外、月明かりに照らしだされた大きなユーカリの木を眺めました
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「早く工事が終わらないかな」
小さな声でそう呟いた次の瞬間、一番大きなユーカリの木に向かって歩く小さな影が見えました

「お母さんだ――」
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バニラはユイの方に振り返りました
さっきまでひとしきりユーカリの葉っぱを食べたユイはぐっすりと眠っていました

「ユイはきっと起きない。だめ、急がないと――」
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急いで木を降りドアへと向かったバニラ
「お願い」と願いをこめ、そっとドアを押してみました
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「開いた――」
“キィー”と小さな音を立て静かにドアは開きました
少しの隙間をそっと抜け、また静かにドアを閉めたバニラはあることに気がつきました
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星空が広がっているはずと見上げた空が、何故か綺麗な青空だったのです
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「あれ、おかしい。太陽はずっと前に沈んだ、もうとっくに夜のはず。違う、さっき部屋から見たときは確かに暗かったのに……」
夜のはずなのに綺麗な青空が広がるオセアニア区には誰の姿もありません
ただ大きなユーカリの木から伸びた影がバニラに向かって伸びています

「何か考えてちゃ駄目だ。走るんだ。そうしないときっと追いつかなくなる」
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誰の声も風の音も聞こえてこない時間が止まったようなオセアニア区の中、バニラは一番大きなユーカリの木に向かって走り出しました
「あれは絶対にお母さんだった。間違えるはずがない」
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「お母さん、身体は大丈夫なの?痛くないの?」
テルちゃんの優しい笑顔を思い浮かべながらできる限りの速さで走るバニラ
一番大きなユーカリの木を目の前に、最後までは見ることが出来ないてっぺんの方を見上げてみました

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「お母さんの姿は見えない、でも間違いない。きっとこの木を登って行ったんだ」
バニラは登り出しました
ずっと会いたかったお母さんの姿を探し、前のようにまた声をかけ一緒に笑いたい
その一心で一生懸命に登っていきました
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相変わらず静かな何故か青空のオセアニア区
ユーカリの木を登る自分の爪の音、普段より少し大きな自分の息の音だけが聞こえてきます
ただ登り続けるバニラ、そしてどこまでも伸びている大きなユーカリの木
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いくら登ってもテルちゃんの姿は見えてきません、いくら登ってもユーカリの木のてっぺんにはたどり着きません
「木を間違えたかな」
そう呟いたバニラが下を見下ろしてみると、金沢動物園全体が豆粒のように小さく見えていました
落ちてしまったら大変です
色々なことを考えだしはじめてしまったバニラはとても心細くなってきてしまいました
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「お母さん、何処に行っちゃったの。もう疲れちゃったよ。もうこれ以上登れないよ」
バニラは疲れてしまっていました
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そう呟いたバニラの目から涙が一粒地面に向かって時間をかけて落ちていきます
涙の行方は見届けられません
「ナミヘイさん、ワライカワセミさん、カンガルーさん」
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「ヒロキさん――力をください。私にお母さんに会うための力をください」
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バニラはまた涙をぬぐいました
小さな手で何度も何度も涙をぬぐいました
ふともう一度上を見上げると目の前にあるものがあることに気がつきました
「あっ」
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「これはお母さんの毛だ。いつだってふわふわの、どこの毛だろう――耳かな、お腹かな? 大丈夫、この木を登り続ければきっとお母さんがいる」
バニラの身体にはまた力が湧いてきていました
小さな身体を上に上にと押し上げる、儚く小さな決して強くはないコアラの力
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バニラはコアラでした
木に登ることができるコアラ、小さなコアラでした
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バニラは再び登り続けました
ただ上を見て、ただ大好きなお母さんの笑顔を思い浮かべて登り続けました
長い、長い時間が過ぎていきました
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どれくらいの時間が過ぎたのかわかりません、バニラにも誰にもわかりません
ふと気が付くと真っ白な雲に近づいていました
大きなユーカリの木のてっぺんはその真っ白な雲を突き抜けて伸びているようでした

「ずいぶん高いところまで――」
バニラがそう呟きかけた瞬間、聞き慣れた優しい声が大きな耳の中へと吸い込まれました
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「バニラ、バニラっ」
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そこにはずっと探していたテルちゃんの、お母さんの優しい笑顔がすぐ傍に輝いていました
「お母さん――お母さん、探したんだよ。追いかけてきたんだよ」
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「もう会えないかと思った、もうお話し出来ないかと思ってた。どうして黙って外に出たの?どうして大きなユーカリの木を登ってきたの?」
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「もうこんなことしちゃ嫌だよ。私やユイをおいてどこかに行っちゃ嫌だよ。帰ろう、みんなの所へ、お家に帰ろうよ。飼育係さんも待ってるよ」
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「バニラ、お母さんは戻らないよ、戻れないよ。これからもっと上に登るの、この白い雲の上、ずっと上に登って行くの」
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「じゃあ私も一緒に行く、一緒に登るよ。離れたくないんだもん。ずっと隣で見守ってきてくれたお母さんのことが大好きなんだもん」
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「駄目、それは駄目なんだよ。バニラはここで引き返しなさい。今ここから上はお母さんしか登れない。このままバニラを連れていったらみんな悲しむよ」
テルちゃんはバニラのほっぺの涙をそっとぬぐいながら優しく言いました。
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「バニラ、本当はわかってるんでしょ。お母さんがこれからどこへ行くのか。そこはね、バニラのお父さんも、お母さんのお母さんもみんないる。ヒロキさんもいる所。誰もがいつか必ず行く所。でもいつそこへ行くかはわからない、誰にもわからない。わかっているのはバニラにはまだ早いってこと。大丈夫、みんな待ってる。これ以上どこにもいかない。だからバニラはまだまだ動物園で暮らしなさい。優しい飼育係さん、動物達を見に来るお客さん。みんなと一緒に動物園で暮らしなさい。バニラやユイ、ワカちゃん、そしてみんなとは一度お別れ。次にバニラと会うのはずっと先。ずっとずっと、本当にずーっと先のこと」
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テルちゃんの話を聞いているバニラは何も声に出来ませんでした
ただ涙を流し、ただ頷いて泣いていました
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「バニラ、今日は夜のはずなのにコアラ舎の外は青空が広がっていたでしょう。それはどうしてかわかる? お母さんが頼んだの。私たちはコアラ、昼の間はたくさん眠っている。時々起きて晴れた空を見上げていても、またすぐに眠くなる。お母さんは青空をずっと眺めてみたかった。すっきりとどこまでも広がる青い空、色々なかわいい形の白い雲、そして光り輝くユーカリの木と葉っぱ。ずっと眺めてみたかった。こうして最後に明るい世界をずっと眺められて嬉しかった。ここは凄く高い、空気も澄みきっている、どこまでもどこまでも見渡せる――最後の旅は本当に素敵な旅になった」
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「さあ、気を付けて戻りなさい。みんなが待ってるよ。お母さんはもう少し登っていく。勇気を出してお別れね」
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「今は朝の8時半。バニラ、今日はさようなら」



二人は別れ、それぞれの場所へと行き、戻りました
バニラが戻ったオセアニア区はそのままずっと晴れ、冬なのに暖かい優しい日になりそうでした
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一度空を見上げ、大きなユーカリの木のてっぺんを見つめたバニラ
出た時と同じ様にドアをそっと開け、静かに中へ入りました
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その気配でユイは目を覚まし、眠そうに目をこすりながらバニラに話しかけました
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「お姉ちゃん、おはよう。どこかに行ってたの?」
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バニラは昨晩のことを話すのか一度迷いましたが、それは「また今度」と思い、今は別のことを話すことにしました
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「お花を探しにいってきたんだよ。家の裏にはウメの蕾が膨らんで――」
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バニラはそんなことを話しながら必死に涙をこらえていました
最後に見た笑顔、頭を優しく撫でてくれた時のテルちゃんの温かく優しい笑顔を思い出すとどうしても涙が出てきてしまいました
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バニラは心の中で言いました
――お母さん、今までありがとう
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「お姉ちゃん、どうしたの? 泣いてるよ」
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「なんでだろうね、わからないよ。ユイ、お姉ちゃんにもわからないよ」
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「変なお姉ちゃん」
ユイは微笑みながらバニラのほっぺをつたう涙をぬぐいました
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「ユイ、お母さんみたいなことしなくていいよ、恥ずかしいよ」
バニラは自分で涙をぬぐい、泣きながら少し笑いました
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「そうだ、ユイ。ヒロキさんのお庭のミモザの蕾が膨らんできたんだ。もう少しで咲くね。暖かい日が続けばまた黄色いお花が咲くね」
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「春だよ、みんなの大好きな春がくるんだよ」
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「そうなんだ、見に行こうよ。ワカちゃんと赤ちゃんも一緒に見に行こう――」
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ユイが笑う傍でバニラはテルちゃんのお部屋の所にある物に気がつきました
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「あれはなんだろう?ユーカリかな」
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飼育係さんがテルちゃんのために供え、置いてくれたユーカリの花瓶
そのユーカリの花瓶が部屋の中で吹いているはずのない風に吹かれ、さらさらと揺れていました
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バニラはユーカリの花瓶の側へと自然に歩き出していました
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「このユーカリ、お母さんの匂いがする――」
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金沢動物園にはコアラが暮らしています
今日もかわいいコアラ達が静かに暮らしています
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儚い命はこれからもずっと
ずっと繋がっていきます
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by bon_soir | 2016-02-10 11:22 | 金沢動物園 | Comments(6)
バニラとお正月
金沢動物園で暮らすコアラ、バニラ
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1月1日、初日の出を見に大勢のお客さんが集まる金沢動物園
ほかのみんなより少しだけ早く目が覚めたバニラはただぐずぐずしているだけじゃもったいない、そんな時間をどう使うかで悩んでいました
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「今日は朝だけお客さんが見に来てくれる日。そんな日、お正月。今頃みんな待っている、太陽が昇ってくるのをきっと待っている」
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「私はなぜだか急に目が覚めた。太陽が昇ってくるより早く、そしてはっきりと目が覚めた。また今すぐには眠れない」
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「今年の冬は少しだけ寒くない。暖かいわけじゃないけれど、何故かそんなに寒くない」
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「私も見に行こう。昇ってくる太陽を、冬の金沢動物園を、少しだけ見に行こう。少しだけ歩いて少しだけ見て回ろう」
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「ユイ、起きてる? 私と一緒に行ってみない?」
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「眠いの? やっぱり行かないの……」


「お母さんは相変わらず寝ぼけてる。お母さんも無理」
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「ワカちゃんはポッケの中に赤ちゃんがいるからまだちょっと駄目」
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「しかたがない、私一人で行ってこよう。早くしないと登ってしまう、初日の出に間に合わない」
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「あっという間、あっという間に空が明るくなってきた」
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「今日はオセアニア区の裏通りを歩けるみたい。お客さん達もそのうちここを歩いてくる、コアラの家に向かって歩いてくるんだね」
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「工事をしているけど、ここはまだ変わってない。これからどうするんだろう――どうなるのかはわからない」
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「ここがヒロキさんのお部屋だった場所。ヒロキさんがずっと暮らしていたあのお部屋の裏側」
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「ほら、ドアに『ウォンバット』って書いてある」
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「トンネルの材料と、ヒロキさんが齧ってた木のぼっこ」
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「そしてヒロキさんが中庭から裏側を眺めていた場所」
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「裏側から見たミモザの木。ヒロキさんが大好きだったあのミモザの木」
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「まだあの時のまま。まだ何も変わらない」
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「工事は大きな音を立てて進んでる。でもまだここは何も変わってない。嬉しいな」
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「太陽が登ってきたみたい。遠くからお客さんの声が聞こえてくる」
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「急がないと」
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「ヒロキさんの部屋の前には入れなくなってしまった。それだけが心配なこと。もうあの素敵な写真を眺めることは出来ないのかもしれない」
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「寂しいね」
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「これが図。新しいオセアニア区の出来上がりの図。色々想像できる、そんな図」
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「太陽が出てきた。時間が無い」
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「私は決めてある。どこで見るかを最初から決めてある」
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「初日の出を見るのはオセアニア区の大きなユーカリの木。大きなユーカリの木のてっぺんから私は見るの」
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「昇ってくる。太陽がゆっくりと早く登ってくる。夜明けだよ」
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「みんな、あけましておめでとう」
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「ヒロキさん、見えていますか? そこからあの初日の出が見えていますか?」
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「コアラはみんな元気です」
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「フクちゃんさん、おめでとう」
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「トビのトビンさん、チョウゲンボウさん、あけましておめでとう」
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「キィアンガさん、キィアンガさん!」
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「あけましておめでとうございます」
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「私はお客さん達が来る前に一周りしています、少し寒いけど大丈夫。今年はそんなに寒くないんです」
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「ローラさん、おめでとう」
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「お客さん達も動物達も飼育係さん達も、おめでとう」
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「あけましておめでとう」
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金沢動物園で暮らすコアラ、バニラ
大好きなテルちゃんの初めての子供
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大好きなコアラ、バニラ




   

by bon_soir | 2016-01-02 13:17 | 金沢動物園 | Comments(6)
バニラと秋の終わり
金沢動物園で暮らすコアラ、バニラ
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秋の終わりにバニラは想います
1年前の寂しく悲しい出来事、そしてその時のお母さんの涙のことを想います
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「あの日から1年が過ぎた。とても悲しかったあの日から1年が過ぎた。それは思っていたよりずっとすぐ、ずっとすぐに過ぎた」
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「そこはどんなところですか? そこからみんなのことが見えてますか? ヒロキさんと楽しく遊んでいますか?」
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「お父さん、もう身体は痛くないですか?」
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「1年経ってしまったね、すぐに1年経ってしまったね」
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「お父さん、お父さんがユーカリの木から眺めてたみんなのオセアニア区は今工事中だよ」
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「少し寂しいけど、色々なことが変わっていくの」
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「なんでだろうね、1年前のあの日から色々なことがかわっていくの」
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「もちろん私もユイも一つ歳をとった。少しお姉さんになったよ」
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「大丈夫。いつも仲良くやってるよ」
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「お母さんもワカちゃんも、みんなで仲良くやってるよ」
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「そう、ここは変わらず温かい。なにも1年前から変わらない」
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「でもね、ユウキ君って男の子が来てくれた。なんだかかわいい男の子が来てくれた」
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「そうしたらね、ワカちゃんがお母さんになったんだよ」
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「ポッケから顔を出すのをみんなで待ってる。お母さんもユイも飼育係さんもお客さん達も、みんなで待ってる」
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「動物園は悲しいことばかりじゃない、楽しいこと嬉しいこともきっとある。それはお父さんが言ってたとおりだった」
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「お父さん、1年が経ちました。1年がすぐに過ぎました」
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「大丈夫。みんな元気で楽しくやってます。ユーカリだって毎日美味しく食べています」
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「夏の終わりにヒロキさん、秋の終わりにお父さん。思い出せば寂しいけれど、オセアニア区は大丈夫」
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「オセアニア区でならきっと大丈夫」
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「動物達はみんな温かい」
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「飼育係さんもみんな、オセアニア区のみんなはとっても温かい」
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「お父さん、大好きなお父さん」
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「あれから1年が経ちました」
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「飼育係のお姉さんにそっと抱かれ、お父さんがそっと旅立ってから1年が経ちました」
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「お父さん、私は大丈夫」
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「お父さん、そこから私のことが見えますか? 私は今どんな顔をしていますか?」
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「お父さん、私はずっとお父さんの娘です」





   

by bon_soir | 2015-11-30 13:51 | 金沢動物園 | Comments(0)
バニラとオセアニア区の工事
金沢動物園で暮らすコアラ、バニラ
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オセアニア区の工事はただ淡々と、ただときおり大きな音をたて進んでいきます
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部屋の中から見る工事の風景はいつもこの壁のまま
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バニラはユイやテルちゃんと毎日毎日、進む工事の話しをしていました
夜中にコアラの家を抜け出し、月明かりを頼りに心配なところを見て回っていたのです
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昨日はあそこが変わった、昨日はあそこの所が変わっていた――そんな話しを毎日毎日していました

「ユイ、ヒロキさんは見てるかな。工事が進むのを見ていてくれてるかな?」
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「お母さん、大きなユーカリの木がまた切られてしまったよ。二人で登ったあの木は大丈夫かな」
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バニラは心配でなりませんでした
少し駄目になってしまった木とはいえ、大好きな“オセアニア区の大きなユーカリの木”が切られてしまうことは、寂しく悲しいことだったのです
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そんな中のある日のこと、バニラは大好きな飼育係のお姉さんに抱かれ外へと出てきました
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「今日は明るいうちに見られる、変わっていくオセアニア区の風景を見ることが出来る――」
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「たくさん見ておかないと、変わっていくオセアニア区を見ておかないと――
今オセアニア区がどうなってるか――ユイに、ワカちゃん、そしてお母さんに教えてあげないといけないんだ」
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「大きなユーカリの木が、また一本、また一本と切られていく」
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「ほら、あそこの木も」
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「寂しいけれど、あれは“もう駄目になってしまった木”なんだってお姉さんは言う」
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「大丈夫、心配はいらないよって、お姉さんは言ってくれる」
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「私はその言葉を信じる、信じている」
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「ヒロキさんも大好きだった飼育係のお姉さんの言うことだから、いつも優しくしてくれるお姉さんの言うことだから――」
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「ヒロキさんのお庭の様子は、なんだか少し寂しい」
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「あんなに綺麗な緑色だった草はいつのまにか枯れだして、冬が来る準備を始めている」
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「また寒い冬が来る。私達が外へ出られるのもあと少しの日しか残ってない」
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「あの地図は、そして“顔を出す看板”はまた立てられるのかな」
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「工事は進む、壁の向こうでいつのまにか進んでいく」
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「心配はいらない、大丈夫、とお姉さんは言う」
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「そう、私はそれを信じている」
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「どんなに風景が変わっても、ここは私達の大好きなオセアニア区。お父さんもヒロキさんも、そして引っ越してしまったナミヘイさんも大好きだった、オセアニア区」
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「カンガルー達も帰って来る。それに、また新しい仔達が来るかもしれない」
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「大丈夫、少しさみしいのは今だけ、きっと今だけだ」
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「大勢のお客さんの声が聞こえる。忘れてた、今私の回りにはコアラを見に来たお客さんが大勢いる」
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「そうだよ、私達がコアラ。金沢動物園で暮らすコアラだよ」
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「ここで暮らしてる、昔からずっとここでコアラは暮らしてる」
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「今度、また今度見に来てくれたなら、ワカちゃんの赤ちゃんにも会えるかもしれないよ」
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「だからうるさくしないでね、私達を優しく見守ってね」
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「ワカちゃんの赤ちゃん、きっとかわいい顔してる。早く私も会いたいな」
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「ほっぺに冷たい風が当たってる。寒いのが苦手な私やユイに外で会える日は、今年はあと少し」
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「私たちはコアラ、金沢動物園で暮らすコアラ」
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「あっ、赤い実だ」
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by bon_soir | 2015-11-04 07:02 | 金沢動物園 | Comments(0)