ズーラシアで暮らすホッキョクグマ、ジャンブイ
横浜にも雪が降らないわけじゃない
ただ少し早くに降っただけ
ただそれだけで少しだけ嬉しくなるときもある
ただそれだけのこと
ホッキョクグマも胸が高鳴る、わくわくする
そんな少し特別な日のこと
朝、部屋から庭へと出てきたら、静かに雪が降っていた
秋が終わる、冬が来る
そんな季節の巡りを天気が急に追い越した
そんな11月の終わりの方のこと
ジャンブイはもちろん気分がいい
散歩する、白く覆われていくいつもの庭を見て回る
「ははっ、凄いよツヨシ。今日は雪だ」
「どんどん雪が降ってくる、どんどん雪は積もっていく」
「楽しいね!」
針葉樹の植え込みに何かを探す
そんなジャンブイ
探してみた物、それが何かはわからない
形があるのか、香りがあるのか
硬いのか柔らかいのか
───目には見えるのか、それはピカピカと光っているのか
それは誰にもわからない
ジャンブイだけの秘密のこと
少し早い雪と一緒に降りてきた───
かもしれないと探してみた
ただそれだけのこと
いつもの岩の上へ登る
積もった雪はジャンブイをそっと優しく乗せている
ひさしぶりの雪は冷たくていい気持ち
「少し前まで暑くてたまらなかったのに───」
夏の暑さをふと懐かしく思い出す
でもホッキョクグマは冬が好き
冬から春へと変わる、その瞬間を感じることが好き
まだ寒いけど少しずつ伸びてくる草、次々に咲き出すお花
それを見つける冬と春が混ざる時へと季節は進む
「今日はその日に向かう入り口だ───」
辺りを見回し雪降る空を見上げたジャンブイ
今日の朝はいつもと違う素敵な朝
ただそれだけのこと
雪にごろごろ
お腹もつける
そう、今日の朝は気分がいい
ふと考えて岩を降りて歩き出す
「ツヨシ、今日は雪だ───」
朝出てくるときに声をかけたジャンブイ
今度は一人で小さく声に出す
「今日は雪だよ」
少し弱くなったり、また少し強く降ったり
雪は空から降りてくる
白い空から白い雪が降りてくる
地面で、木の枝で積もる雪、地面でプールで溶ける雪
この雪はいつまで降るのか、いつまで残るのか
それは誰にもわからない
「ツヨシの分、あるのかな───」
空を見上げ、降り積もった雪を眺めて、ふとジャンブイはつぶやいた
優しいホッキョクグマ、ジャンブイは空を見上げ、降り積もった雪を眺めてつぶやいた
今この瞬間に感じる気持ち、瞳に映る辺りの景色
何もかもが素敵な朝のことだから、ジャンブイはふとつぶやいた
「ツヨシの分、あるのかな───」