金沢動物園で暮らすコアラ、ワカ
ワカのポッケの中の大切な物
それはどんどん大きくなり、時々ポッケからはみ出してしまうくらいになっていました
「眠たいな、やっぱりどうしても眠たいな」
「でもどうしよう、ぐっすり寝るにはとても心配」
「ポッケの中が動くから、もし落ちちゃったら大変だから」
「可愛い顔を見たいから」
「眠ってばかりじゃいられない」
「これはかわいい小さな手」
「かわいくて大切な、時々出てくる小さな手」
「今日は手だけが出てきたよ」
「飼育係のお姉さん、こんにちは」
「大丈夫だよ、私は元気」
「ポッケの中が気になって少し眠たいだけ、ただそれだけ」
「お姉さんが見に来てくれると、私はなんだか安心する」
「お姉さん、少しくすぐったいよ」
「今日はね手が出てきたの。昨日はね、かわいい顔が出てきたの」
「バニラさんには見せてあげた。『かわいい』って言ってくれた」
「どうですか?見えますか?」
「かわいい顔が見えますか?」
「私、お母さんになった」
「不思議なこと、びっくりしたこと。そして素敵なこと」
「私はお母さんになった」
「どうしてほっぺを引っ張るの?」
「えっ?少し汚れがついてるの?」
「とれた?」
「お姉さん、私お母さんが出来るかな?」「かわいい赤ちゃんのかわいいお母さんが私にも出来るかな?」
「今日も大きな音が聞こえる」
「オセアニア区の工事は進んでいっているみたい」
「大きな機械が動いてる」
「工事はいつか終わる、きっと終わる」
「カンガルーさん達がオセアニア区に帰ってきたら、私の赤ちゃんを見てもらおう」
「きっと『かわいいね』って言ってくれるはず」
「なんだか楽しみ。早く工事が終わればいいのにな」
「冬はすぐに暗くなる。薄暗くなるとコアラのみんなは元気になる」
「きっとまた赤ちゃんだって顔を出す、かもしれない」
「わたしのポッケの中には赤ちゃんがいる」
「まだまだ小さな体の、小さな手と足の、そしてかわいらしくて小さな顔の赤ちゃんがポッケの中に入ってる」
「毎日少しづつ大きくなって、ポッケから全部出てくる日が近づいている」
「私は思い出した。お母さんのポッケから出てきた日のことを思い出した」
「お母さんは優しく抱っこしてくれた。優しく少し笑ってずっと抱っこをしてくれた」
「今度は私が抱っこする。毎日毎日少しづつ、そんな日が近づいている」
「赤ちゃん、早くでておいで。大丈夫、みんなとっても優しいよ」
「私のポッケの中には赤ちゃんがいる」
「そう、私はお母さんになった」