金沢動物園で暮らすウォンバット、ヒロキ
連休の終わりの日の金沢動物園のオセアニア区
訪れるお客さんの数も落ち着いた日の朝、ヒロキは朝日の中で青草を食べていました
今日の朝日はとても気持ちがよく、爽やかに吹く風が過ごしやすい一日であることを知らせてくれています
朝ごはんを食べずに眠ってしまった日も多くありましたが、この日のヒロキは美味しそうに幸せそうに青草を食べ続けています
いつも思う「ヒロキに会えるかな?ヒロキは元気かな?」という心配事がなくなるこの瞬間、金沢動物園での一日の時間が早足で動き出すのです
「今日は暖かいだけで暑くない日になりそうだ」
「連休の最後に本当の春が戻ってきた気がするよ。嬉しいね」
「今日までが朝早く帰りも遅い日だ。過ごしやすい日であれば僕も動物園のみんなも大丈夫、お客さんも大丈夫だろう」
「みんなで今日の動物園を楽しむことが出来るだろう。嬉しいね」
「それにしても今日の青草は美味しい。やっぱり干からびる前に食べた方がいいんだね」
「ただ一度にたくさん食べようとすると失敗する。みんなも気を付けないといけない」
「口は大きく開く。そうして食べればもっと美味しく感じるんだ」
「手を使って食べると時々混ざる美味しくない所を分けることが出来る」
「それにお客さん達が喜ぶからね」
「青草は料理すればお客さん達も食べられそうじゃないかな?」
「煮たり焼いたり炒めてみたり、そう、味付けはお醤油だ」
「きっと美味しいよ」
「なんだかお腹がいっぱいになってきた」「毛づくろい」
「この後は少しだけ散歩だね!」
「もう一度毛づくろい。作ってくれたオブジェと同じ格好だ」
「頭がかゆいのは何故だろう」
「何故だろう」
「背中がかゆいは何故だろう」
「ここの壁が好きなのは何故だろう」
「何故だろう」
「金沢動物園にやって来てもう28年、まだわからないことがたくさんあるよ」
「29年生きてきてまだわからないことがたくさんあるよ」
「だからってわけじゃないけど僕は散歩を続ける」
「そうだ、お庭も少しづつ変わっていくからね」
「花壇の様子もすっかり変わった」
「春が準備をしてくれた。そう、これからは夏の花壇になっていく」
「夏の次は秋。僕の誕生日だ」
「秋にはキンモクセイの花が僕のお庭でも咲く。待ち遠しいね」
「もう一度花壇を見ておこう。少し眠くなってきたからね」
「ヒメジョオンが増えたね。嬉しいよ」
「今日もいい夢が見られそうだ」
「こんな所で眠くなってきた。陽も当たるけど今日は暑くない。大丈夫だろう」
「そう、少しの間だけここで眠ろう。花壇の側で眠ったなら夢にお花がたくさん出てくるよ」
「もう僕は素敵な夢の中にいる」
「黄色いお花が見えてきた。どこで咲いている花なんだろう」
「僕のお庭へ来ないかい? 僕のお庭で一緒に風に吹かれてみないかい?」
ヒロキはその後やっぱり日陰で寝ていました
黄色いお花がヒロキのお庭にやって来て、ヒロキは嬉しく思い安心したんでしょう
雲が多くなりオセアニア区はお昼を過ぎても暑くなりません
苦手な夏が来る前にヒロキは庭の隅でぐっすりと眠ります
気持ちが良い日にはぐっすりと気持ち良く楽しそうにヒロキは眠ります
「ワライカワセミの声が聞こえる。雛はかえったのかな」
「夢も終わっている。そろそろ起きようか」
「起きるとお腹が空いている。食べられそうなものは少しかじってみるよ」
「ドアの向こうに飼育係のお姉さんの気配がする」
「カンガルー達の部屋の掃除かな?いつも本当に頑張ってくれている」
「ありがとう」
「キウイにも蕾がついたね。またたくさんの実がなるのかな」
「連休も最期の日はオセアニア区も静かだね。賑やかなのも嬉しいけど、静かだとやっぱりほっとするよ」
「夕方は今までずっと静かだったからなんだと思う」
「今年は大勢のお客さんが会いに来てくれたようだ。それは本当に嬉しいよ」
「みんなが動物達を好きになるきっかけにもし僕がなったのであれば、それは本当に嬉しいよ」
「動物園は楽しいよ」
「連休は終わってしまう。でも動物園は終わらない」
「動物達が楽しく暮らしている限り動物園は終わらない」
「閉園時間はやってくる。でも動物達の動物園は終わらないんだ」
「夜の間にも楽しいこともある、嬉しい事もある。寂しいこと、悲しいことだってあるんだ」
「長いお休みは終わりだ。そしてこれから暑くなる。僕はお部屋暮らしかもしれない」
「でもこれからもずっと金沢動物園に来てね」
「時々は僕に会いに来てね」
「一度だけなんて寂しいよ。それに一度じゃもったいない」
「色々な動物、色々な季節。会うたび見るたび、それはみんな絶対に同じじゃないんだ。それがきっとわかる。そしていつの間にかみんな優しくなっていく」
「そう、一度きりのイベントじゃもったいない」
「動物園は世界への入り口なんだ」
「今日もドアはまだ開かないみたいだね」
「上のドアをノックしてもここのドアをノックしてもまだドアは開かないんだ」
「なんだか、時間が長いことにも慣れてきた」
「もう少し夕方の動物園を楽しもう」
「そう、明日からはこの時間に空を見ることは出来ないからね」
「静かな動物園だ。昔から変わらない静かな動物園だ」
「下から聞こえる声は誰の声?僕に会いに来てくれたカナヘビの声?」
「空から聞こえる声は誰の声?ゆっくり飛んでるトビの声?」
「遠くで聞こえる声は誰の声?」
「あの声はきっと僕を迎えに来る飼育係のお姉さんの声」
「今日一日、みんなと一緒だった時間はそのうち終わる」
「これから先は動物達の時間だ」
「今日は何があるんだろう、今日はどんな話を聞けるんだろう」
「飼育係さんにもお客さんにも内緒の時間だ」
「そして僕はまた眠る。飼育係のお姉さんが用意してくれる干し草のベッドは気持ちが良いからね」
「あなた達と一緒に眠れたらいいのにと思う。そんな日が一日くらいあってもいいと思うんだ」
「夜の間、僕とお客さん達は夢の中でしか会うことが出来ない」
「そう、夢はいつの間にか忘れてしまう」
「夢も楽しいけど、夢に見たことが現実に起こるならそれが一番楽しいんだ」
「僕は金沢動物園と人を繋ごう。ウォンバットに出来る事、穴を掘ったり散歩したりご飯を美味しそうに食べたり、そして長い時間眠ったり。それが僕の、ウォンバットの仕事だ」
「そしてテルちゃんやバニラ達、コアラや動物園の動物達に手伝って貰って、人と金沢動物園を繋ごう」
「オセアニアに繋がる入り口もここにはある。必ずそこまで案内するよ」
「だからまずは金沢動物園と人とを繋ぐんだ。それが一番最初の入り口だ」
「もし、あなたも手伝ってくれたなら本当に嬉しいよ。お客さんに頼みたいこともたくさんある」
「僕のことを好きになってくれた人、次は金沢動物園を好きになって僕の考えたことを手伝ってくれませんか」
「きっと金沢動物園の動物達、そして世界中の動物達が喜んでくれる」
「素晴らしいことなんだ」
「閉園の音楽が聞こえてきたね」
「ドアも開いたようだ」
「大好きな丸太にもただいまの挨拶をする」
「みんな、今日は見に来てくれてどうもありがとう」
「また会いに来てね。眠っていたらごめんなさい」
連休が終わりまた暑い夏が来ます
ヒロキの苦手な夏です
ヒロキは一生懸命頑張っています
力を振り絞って頑張っています