風がはこんできた「今日の何だかいい感じ」を、ヒロキもつかまえたようです。
朝ごはんもおいしく食べて、毛づくろいも少しして。
ここのお庭の草やお花は、おねえさんがそのままにしてくれています。
ゴールデンウィークには、ここでかわいいポーズをとって、大勢のお客さんがヒロキのことを好きになってくれたとききました。
「あの頃はかわいいお花がいっぱい咲いてたけれど、5月ももう終わりだ。あっという間に夏が来てしまいそうで、本当にこわいんだ」
「でも今日は気持ちのいい風が流れてる。ぼくも今日はやりたいことができそうで、わくわくするよ」
トンネルの中に入ってくれると思いきや、ヒロキはそのまま丸太さんをコツコツかじりはじめました。
コツコツコツコツ、お庭に響くかわいい音。ヒロキと丸太さんのリズムはとても正確に刻まれます。
ただひたすらにコツコツ、コツコツ。100コツコツでひといき。さらに120コツコツ。
さてこれで、朝のしたくはおしまい……かわいいお顔についた丸太さんのかけらは、ヒロキ的にはOKなのでしょう。
次はどんな顔を見せてくれるの、ヒロキ。ヒロキをそっと見守れる幸せな時間です。
ヒロキはためらうことなく壁へ向かいます。この日のヒロキの朝の時間割は大きな穴を掘ることでした。
しゅっ、しゅっ。しゅっ、しゅっ。ヒロキのまきあげるお庭の土が軽やかに音を立てて、どんどん掘り起こされていきます。
ウォンバットは、小さなブルドーザー。かわいいかわいいブルドーザーです。
「少し残念だけど、この穴もいずれはおねえさんが埋めてしまう。一緒に、丸太さんも埋めてくれたりするから、また掘り起こすのも楽しいんだ。それがたまたまなのか、わざと埋めてくれてるのかはわからないけれどね」
「今日は調子がとってもいいよ。おとなりのカンガルーくんにもそう伝えてね、アイビーさん」
ヒロキのお顔はどろだらけ。それでも小さなブルドーザーはおかまいなしに進みます。
「カンガルーさんたちは、どうして穴を掘らないんだろう……掘ってくれたらすぐにトンネル開通なのにね」
ヒロキは宿敵、明るい茶色の丸太さん、ミモザの丸太さんに出会ってしまいました。
大きくてとっても元気な丸太さんは、ヒロキの大きな鼻やおでこをもってしても、なかなか動いてくれないのです。
かなりの時間、丸太さんを説得してみたヒロキですが、力ずくではかなわず……
「今日のところはやめておくね。でもいつかはぼくのお願いもきいて欲しいんだ。ぼくもまだ君をかじりたくないからね」
すいぶんと高くなったおひさまがヒロキを照らしはじめます。こうしてヒロキの大きな穴掘りの時間は終わりました。
ヒロキは気がつきました、朝からずいぶんと頑張りすぎてしまったことを。でも大満足な気持ちのよい朝です。
日陰へ移動する前に、眠くなってしまったヒロキ。
オセアニア区のユーカリテラスでは、そろそろ子どもたちがお弁当を広げて、にぎやかになる時間です。
裏山ではうぐいすも鳴きはじめました。
ヒロキはいつも通りの楽しい金沢動物園の音をききながら、長い長いおひるねをはじめます。
おひるねに見る夢は、怖い夢はほとんどありません。
もし見てもみんながそばにいてくれているから怖くありません。だからヒロキも安心して眠ります。