秋が来て冬が来る前にフジがやること
残暑が厳しい毎日ですが、確実に秋が上野動物園のマレーグマ舎にも来ています。
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フジ、初めての夏。マレーグマ舎にやってくるお友達はフジにある事を教えていました。
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放飼場の木のてっぺんまで登ったフジへのご褒美です。



 凄く暑かったある日、僕はとうとう木のてっぺんまで登った。最高の気分、僕は今のお父さんやお母さんよりも高い所に登れるようになったんだ。

――ふと見上げると、そこには鳩さんが僕を待っていたんだ。そして鳩さんが僕に言った。
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「上野動物園にはモノレールがある。知ってるかい?」

 モノレールはここからホッキョクグマさんの方を抜け、少し行った右側に駅があるらしい。僕の知らない西園って所まで続いていると鳩さんは言った。
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 続けて鳩さんは教えてくれた。
「夜になったら駅にはフクロウがいる時がある。もしフクロウがいる時に駅に行けたら幸運だ。」

――それはどうしてだい?

「行きたい所をフクロウに言えばいい。そこまでの切符をくれるよ。その切符をモノレールの運転手に渡すんだ。運転手は猿だよ。」


 僕の行きたい所、それは北海道のお兄ちゃんの所だ。
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 僕は木のてっぺんまで登ればお兄ちゃんの暮らす所が見えると思っていた。でも木のてっぺんからではお兄ちゃんは見えなかった。
でも鳩さんの話は少しがっかりしていた僕を、とたんにワクワクさせたんだ。
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――お兄ちゃんに会えるかもしれない。

 僕はいつかお兄ちゃんの暮らす北海道まで歩いていこうと思っていた。そのために強くなろうと、ご飯だってたくさん食べていたんだ。

ただそれではお母さんと一緒には行けないと思った。
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 僕は男のマレーグマだから、きっと北海道まで行けると思うし、行かなければいけない。
ただお母さんは木登りも少し苦手だし、きっと途中で疲れてしまうだろう。
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 最近のお母さんはご飯を食べ終わると、ドアの前でじっとしているしね。

 でもモノレールってやつで行けばお母さんだって一緒に行ける。北海道で暮らすお兄ちゃんの所まで一緒に行けるんだ。

 そうだ、モノレールで北海道まで行くんだ。


 ある日、ふと見上げた夜空は満月だった。ひと月に2回満月になるのは珍しいとお母さんが言った。
――もしかして今夜なんじゃないのか。
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 モノレールの駅にフクロウさんが待っている日はきっと今夜だ――

 僕はお母さんに事情を話した。そっと鍵を開けてモノレールの駅に行こう。
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 もちろん、お父さんやキョウコおばさんには内緒だ。

 僕とお母さんは他の動物のみんなに気付かれないように静かに家の外へ出た。満月に照らされた動物園は夜の明るさで不思議な色に見えた。
 そしてとても静かだった。
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 ホッキョクグマ舎の横の坂道を歩き、鳩さんに教えてもらったとおりモノレールの駅に向かって歩いた。
お母さんはまだ信じられないと言っていた。
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 でもなぜか僕には確信があった。2回目の満月の日、きっと今夜だ。
フクロウさんが待っている。

 しばらく歩くと鳩さんが言っていたとおり、右側に建物が見えてきた。
――あそこだ。きっとあそこがモノレールの駅だ。

 「お母さん、きっとあそこだよ。必ずフクロウさんが待っているよ。」
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 僕とお母さんは少しだけ走った。そしてモノレールの駅に着いた。


 僕とお母さんはモノレールの切符売り場を見た。
そこには大きな丸い目をした鳥が、静かに僕とお母さんを見ていた。
――フクロウさんだ。間違いない、今夜で間違いなかった。

「フクロウさん、切符を下さい。お兄ちゃんの暮らす北海道までの切符を下さい。2枚ください、僕とお母さんの分です。北海道までの切符を2枚下さい。」

 フクロウさんが券売機のボタンを押した。
切符が二枚出てきた。受け取った切符には『北海道の円山動物園』と書いてあった。

――ありがとうフクロウさん。

 僕とお母さんはモノレールに乗り込んだ。鳩さんが言っていたとおり運転手は猿だった。
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運転手の猿は切符を見ると、無言でうなずいた。


 ドアが閉まり、僕とお母さんを乗せたモノレールはゆっくりと走りだした。
今だけは西園には行かない。お兄ちゃんの暮らす北海道までモノレールは走っていく。

 ふと左側の窓に大きな鳥が映った。びっくりした僕達に運転手の猿が言った。
「びっくりしましたか?あの子はエミューです。毎日あそこからモノレールに乗っている人達を見送っているんです。動物園に来てくれた皆さんが1日楽しくしてくれますようにと見送っているんです。」

 運転手の猿は満月に照らされていた。無表情だけど楽しそうだ。
そしてまた僕とお母さんに話してくれた。
「北海道は冬になるととても寒くなります。行くのなら夏の終わり、秋が来はじめた頃がちょうどいいです。良かったですね。あなた達の旅はきっと素敵な物になります。間違いありません。」


 僕とお母さんを乗せたモノレールは“夜のいわし雲”の中へと音を立てずに入っていった。



  

 
by bon_soir | 2012-09-21 21:42 | 上野動物園 | Comments(4)
Commented by こまち at 2012-09-22 00:09 x
しむらさん こんばんわ!
ううーかわいい フジくんもですが、お話がかわいすぎです。
写真絵本とか作れたら楽しいでしょうね〜
いやいや、もう立派な絵本ですよ!
お兄ちゃんに無事あえますように…
Commented by 長崎 at 2012-09-22 19:00 x
しむらさんこんにちは。
いつもとても素敵な写真とお話ありがとうございます。

再会した桃梅藤の姿を想像したら目頭が熱くなってきました。
ウメキチとフジは初めて会ったら、同じ匂いがするお互いに一瞬驚いて、それから飽きずに相撲をとっていそう。
モモコはそれを穏やかな表情でずっと見守っているんだろうなぁ。

それにしても写真のフジ、ウメキチに負けず劣らず毎度味のある表情見せてくれますね。

私もウメキチに会いたいです。
Commented by しむら(ぼんちゃん) at 2012-09-23 09:09 x
こまちさん、コメントありがとうございます。

最近はあまり上野に行けていないのですが、行ったときは西園との移動にモノレールに乗ってみたりしていました。
前は歩いていたのですが、ここの所暑くてしかたがなかったので……
その時、ふとこのまま北海道まで行かないかな、と思ったんです。
北海道は少し涼しそうですしね。

昨日今日と涼しくなってきましたね。
やっとヒロキも出て来れそうですし、上野でクマたちを見るのも捗りそうです。
Commented by しむら(ぼんちゃん) at 2012-09-23 09:18 x
長崎さん、コメントありがとうございます。
実際にモモコがウメキチに再開したらどんな気持ちになってくれるのでしょうか。
フジはお兄ちゃんに初めて会って、どんな事を考えるのでしょうか。
マレーグマにかかわらず、クマたちが見せる人間的な行動のことを考えると、ぜひモモコ、アズマファミリ-に集合してもらいたいと思います。

フジはウメキチよりも笑っている表情が多く感じます。
マーズ達もそうですが、本当にみんな個性的で会えば会うほどマレーグマの素敵な感じっていいものなんだって思います。

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